がん治療が大きく変わる!



◇がんの分子標的治療
がんの3大治療といえば「手術」「抗がん剤」「化学療法」が挙げられますが、がんの新しい治療法の開発は日進月歩で進んでいます。ここでは最も効果が期待されるひとつとして「分子標的治療薬」の紹介を致します。抗がん剤治療は、血液中に入り全身を巡って体内のがん細胞を攻撃、破壊するので全身的な効果が期待でき、これまでのがん治療の歴史に大変重要な役割を担ってきました。
しかし、今までの抗がん剤は、がん細胞と同様に正常な細胞にもダメージを与え、嘔吐、脱毛といった症状や、白血球や血小板、肝臓、腎臓などを傷つけ、強い副作用に苦しめられ、治療が継続できなくなることも少なくありませんでした。
そうした中、ここ数年の再先端医学で注目され出したのが「分子標的治療」です。使用される「分子標的薬」は、がん細胞だけが持つ特徴にターゲットをしぼって攻撃をする薬で、そのため正常な細胞が受けるダメージが非常に少なくて済むことや、従来の抗がん剤とは異なった薬理作用がありますので、がん細胞を効率よく攻撃し、がんの再発・転移などにも効果が高く、今後の治療に大きな期待が寄せられています。
◇正常細胞にダメージを与えない
近年の分子生物学の急速な進歩により、がん細胞だけが持つ特徴を分子レベルで捉えられるようになり、この分子レベルを利用して作られた抗がん剤を「分子標的薬」と呼びます。主に、白血病、乳がん、肺がん等に於いて有効な治療手段とされています。
「分子標的薬」は分子レベルでがんを選択的に狙い撃ちしますので、正常な細胞を傷つける危険が少なく、副作用を少なく出来るという大きな長所があります。
|
従来の抗がん剤は細胞を破壊するように働きますが、「分子標的薬」はがん細胞の増殖を止めるのが主体です。そのため、分子標的治療だけではがんを完全に取り除くことはできず、従来の抗がん剤や免疫治療と併用していくことで治療を進めていきます。
◇様々な分子標的薬
分子標的治療薬のうちのいくつかは日本でも承認され、使用されています。また、日本ではまだ承認されていないものの、欧米で効果を上げている薬も少なくありません。ただし、臨床で使われるようになってからの歴史が浅いだけに、慎重に使うべき薬でもあります。今までの治療と同様に大きな病巣には効きにくいということや、使い続けていると効果が薄れていく耐性の問題などもあります。ただ新しいものに飛びついてその薬だけに頼ろうとするのではなく、ほかの治療法にも助けてもらいながら統合的にがんに立ち向かうことが必要でしょう。
●現在日本で承認されている分子標的薬
イレッサ:ゲフィチニブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
非小細胞性肺がん がん細胞の中に入り込みがんの増殖を抑制します。飲み薬なので在宅で使用できQOLの向上にも効果的です。 |
リツキサン:リツキシマブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
B細胞リンパ腫 がん細胞の表面に着いて増殖を抑えます。免疫細胞による抗腫瘍効果も期待できます。 |
グリベック:イマチニブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍 慢性骨髄性白血病の治療薬として承認されています。自宅での内服治療ですので日常生活を送りながら治療を続けられます。 |
ハーセプチン:トラスツズマブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
乳がん 抗がん剤の効き目を高め、がん細胞の増殖を抑制する働きに期待できます。術後の補助化学療法としても効果大です。 |
ベルケイド:ボルテゾミブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
多発性骨髄腫 多発性骨髄腫に有効で、がん細胞がアポトーシス(自死)を起こしやすくなります。注射薬なので内服薬以上に慎重な取り扱いが必要です。 |
アバスチン:ベバシズマブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
大腸がん がん細胞の血管新生を抑制しがんを兵糧攻めにします。がん細胞の増殖、転移の抑制に非常に有効です。(ただし現時点では使用施設や使用法がかなり限定されています) |
●欧米である程度評価されている分子標的薬
タルセバ:エルロチニブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
非小細胞性肺がん がん細胞の増殖抑制に効果的です。作用はイレッサに似ていますがイレッサよりもがんの適用範囲が広がっています。 |
エルビタックス:セツキシマブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
大腸がん イレッサ、タルセバと同じ作用を持ちますが、 両薬では効果が期待できない消化器系のがん等にも効果を示します。 |
スプリセル:ダサチニブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア陽性急性リンパ性白血病 慢性骨髄性白血病の治療薬です。グリペックでは効果が見られなかった患者さんに対し投与されます。 |
ネクサバール:ソラフェニブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
腎細胞がん、肝細胞がん 腎細胞がんに大変有望な薬剤です。数種類の標的分子を同時に狙い撃ちすることができ多くの分子を抑制するので、効果も高い分、毒性もやや強いので、使用には注意が必要です。 |
スーテント:スニチニブ(一般名)
|
▽効果が期待されるがんの種類
消化管間質腫瘍、腎細胞がん ネクサバールと同様の効果を持ちます。従来の抗がん剤で効果が見られなかったがん種に期待がされています。 |
◇分子標的治療の注意点と免疫療法との相乗効果
「分子標的薬」はこれまでの抗がん剤と比べて副作用が少なく、QOLを重視した身体に優しい治療が出来ます。しかしながら副作用が軽いとはいえ、ゼロではないので、しっかりとした安全管理と副作用対策が必要です。
「分子標的治療」は単独での治療より「免疫療法」の併用もお薦めの治療法です。
たとえば、「分子標的治療」副作用として皮疹、発赤、発熱、喘息のようなアレルギー的な症状がありますが、免疫療法を併用する事で、悪玉リンパ球を減少させてこのような症状を抑えたり、リンパ球からインターフェロンの放出が活発になるので、がん細胞の治療に対する耐性獲得を阻止したりと、様々な相乗効果が得られます。
いずれにしましても、これらの治療についてはドクターと一緒に十分な情報を確認し相談の上、検討されることをお勧めいたします。