作品名・作者名 あらすじ 表 紙
感想文
おすすめ度・評価
『しろばんば』
井上靖(新潮社)
親元から離れておぬい婆さんのもとで暮らす小学生の洪作は、友だちや大人たちとの関わりの中で、様々な出来事を経験し、時には共感を、時には反感を抱きながら、徐々に大人への階段を上っていく。
この小説は、子どもも読める、いや子どもが読む物語であるのかもしれないが、非常に重みのある内容であった。小学生である主人公洪作の日常が、平凡に述べられているのであるが、その中に繊細な心の動きを非常にうまく描き出している。多少長い小説であるが、無駄な箇所は見られず、一つ一つの描写にメリハリがあり、読む者を飽きさせない。いろいろな意味で深い感動をもたらしてくれる内容であった。

85

 
『人と思想 紫式部』
沢田正子(清水書院)
久しぶりに新しく紫式部に付いて書かれた新刊であるが、正直言って目新しいことは何も書かれていない。さらに『源氏物語』についての解説で半分以上が費やされており、どっちが主なのか分からない。もちろん『源氏物語』が紫式部という人物を知る上で大切なのは分かるが、もっと『紫式部日記』や『紫式部集』または他文献から紫式部像に迫ってもらいたかった。ただ初心者が読む入門書としては、非常に分かりやすい書になっていると思う。

50

 
『読書力』
斉藤孝(岩波新書)
読書力が人間形成にとって非常に重要なものであるという点は同感である。最近の子どもたちの本離れは、大変深刻で、それをくい止めようとする著者の姿勢は素晴らしいことだ。しかしながら、方法論がいくぶん著者本位すぎている。たとえば、読書力を付けるには最低文庫本100冊と新書50冊は必要だなどという発言は、ちょっと納得しがたいものがある。もっと客観的にみて、良い読書法を述べてもらいたかった。

60

 
『海辺のカフカ(上下)』
村上春樹(新潮社)
15歳になった田村カフカ(偽称)は、家出をする。そしてそれは、皆が考えるような甘い家出ではなく、二度と戻らないと堅く決意したものであった。行き先は自分自身でも分からない。ただ何かに引き寄せられるかのように、四国は高松へ行く。それと時を同じくして、ナカタも高松へやって来る。両者の行く先、そしてこれからあらゆる現象が起きてゆく。
久しぶりに深く深く感銘を受ける本に出会った。始めのうちは、1章ごとに入れ替わる話(2話が同時進行している)に困惑していたが、その二つの物語の距離がだんだん短くなるにつれて、僕の緊張も高まっていった。また文章自体も、歯切れが良く、さらに村上春樹お得意のエロティックな描写も、渡辺淳一とは大違い。さまざまに想像力を駆り立て、あたかも自分がその場に居合わせるかのような妄想に誘う。すべての面で完璧な作品であったと思う。ただし採点は95点とし、再読したときのために5点を取っておきたい。

95

 
『パーク・ライフ』
吉田修一(文藝春秋)
これは平成14年度上半期(第127回)芥川賞受賞作である。内容は、日々人が入れ替わり立ち替わりやってくる公園で、偶然であった男女が徐々に親交を深めていくものであるが、正直言ってこれが芥川賞??と言いたくなるような作品である。設定自体も、目新しいというものでもないし、そもそも男女の出会い自体が不自然である。さらっと読めるが、それはあくまで悪い意味でさらっとという感じである。つまり石原慎太郎氏が評しているように、底が浅いということであろうか……。終わり方も、余韻を含んだものにしたのであろうが、そこに重みはない。もちろん『パーク・ライフ2』なるものが出るなら別の話だが。

35

 
『ママという名のお星さま』
カーレン・スーザン フェッセル
(求龍堂・非売品)
平和な家庭に突然訪れた悲劇。それはママが癌にかかったこと。まだ幼いルイーゼは、ママの置かれた状況が分からないし、パパやヤンニもママが良くなることを信じている。しかし、期待とは裏腹に、だんだん悪くなっていくママを見て、ルイーゼも徐々に「ママの死」というものを考えていく。そしてついに……。
これは発売に先駆けてパイロット本を出版社よりいただき読んだもので、まだ現時点では出版はされていない。内容は母親の癌という重病を、幼い女の子の視点で見ていくという形式になってるが、フィクションでありながらも、強烈なリアリティを感じさせるものであった。ありふれた内容ではあるが、情景描写と時間の推移の細かさが、迫真力の源になっている。おそらく、主人公「ルイーゼ」と同じ体験をしたことのある読者なら、僕以上のリアルさを感じるであろう。

80

 
『親日派のための弁明』
金完燮(草思社)
これは韓国で「有害図書指定」を受けただけあって、スゴイ内容であった。韓国人でもここまで日本贔屓に書けるものなのかと……。中心的話題は、戦前戦後の、歴史観が主であり、特に朝鮮が日本に植民地支配されていたとされることは間違いで、日本は好意で併合したというのが著者の主張である。日本人には当然受ける内容になっているが、はたして歴史的信憑性はどの程度であるのか、それを調べない限り、全面的に受け入れられるものはない。ただ、現代の韓国人の中に、日韓関係をこのように見ている人がいるということに驚きであった。それも本書によると少数ではないらしい……。

75

 
『老いてこそ人生』
石原慎太郎(幻冬社)
今年70歳になる都知事石原慎太郎氏の書いた、老後の過ごし方についての本である。内容は、自分の体験した様々な苦難などから、若くして老いというものを意識し、それに愕然としながらも、その避け得ない老いを直視し、いかにそれに立ち向かっていくべきか、いつもの石原節で述べられている。意外な裏話も飛び出し面白く読める反面、老いというものがいかなるものかも痛切に伝わってくる書である。20代の僕が読むのは早すぎるのかと思ったが、そうではなく、若いうちにい老いというものも考えておかなければならないと、非常に説得力のある言であった。

80

 
『臨機応答・変問自在1・2』
森博嗣(集英社新書)
この書は、1巻は学生からの質問、2巻は読者からの質問に対して著者である森氏が、的確かつコンパクトに答えるというものである。あらゆる分野の質問に対して、「突っ慳貪」を表面に出し、なかなか面白可笑しく返答しているが、時に、返答に窮して「〜を定義してください」などと、逃げてしまう場面も多々あった。全体的には肩の力を抜いてさらさら読める本であった。

70

 
『生きかた上手』
日野原重明(ユーリーグ)
90歳を越えてもなお現役で働く医師日野原先生の書かれた書。健康に長生きされた人ならではの重みのある言葉が響いてくる。様々な状況における生き方を示しているが、そこには共通的な一本の筋が通っていて、より説得力を増している。この書は、年を取ってからというより、若い人たちが読んで、是非今後の人生の参考とすべきものであると思う。

85