宿 木
やどりぎ
<巻名>

<本文>
そのころ、藤壺と聞こゆるは、故左大臣殿の女御になむおはしける。まだ、春宮と聞こえさせし時、人よりさきに参り給ひにしかば、むつましくあはれなるかたの御思ひはことにものし給ふめれど、そのしるしと見ゆる節ふしもなくて年経給ふに、中宮には、宮たちさへあまた、ここら大人び給ふめるに、さやうのことも少なくて、ただ女宮ひとところをぞ持ちたてまつり給へりける。わがいと口惜しく、人におされたてまつりぬる宿世すくせ嘆かしくおぼゆるかはりに、この宮をだにいかでゆく末の心も慰むばかりにて見たてまつらむ、とかしづき聞え給ふこと愚かならず。
<現代語訳>
<評>