<巻名>
光源氏の藤壺哀悼の歌、「入日さす峰にたなびく薄雲はもの思ふ袖に色やまがへる」による。
<本文>
冬になりゆくまゝに、川づらの住まひいとゞ心ぼそさ増さりて、うはの空なるこゝちのみしつゝ明かし暮らすを、君も、「なほかくてはえ過ぐさじ。かの近きところに思ひ立ちね」と、すゝめ給へど、つらき所おほく心みはてむも残りなきこゝちすべきを、いかに言ひてか、などいふやうに思ひ乱れたり。
<現代語訳>
冬になるにつれて、大堰の岸の生活は、心細さが増すばかり、おちつかない気持ちのうちに一日一日を送るのだが、殿さまも、「こんなことではとても暮らしてゆけまい。邸に近い所に来る気になれ」と、おすすめくださるけれども、「おそばに行って、つめたいお方をはっきり知ってしまったら、未練もないことになるだろうが、そのときは、なんと嘆こうぞ」など、心がさわぐのであった。
<評>