関 屋
せきや



<巻名>

 光源氏と空蝉が逢坂の関で偶然に出会ったことによる。





<本文>

 伊予の介と言ひしは、故院かくれさせ給ひて又の年、常陸になりて下りしかば、かの帚木もいざなはれにけり。須磨の御旅居も遙かに聞きて、人知れず思ひやり聞えぬにしもあらざりしかど、伝へ聞こゆべきよすがだになくて、筑波嶺の山を吹き越す風も浮きたる心地して、いさゝかの伝へだになくて、年月かさなりにけり。限れる事もなかりし御旅居なれど、京に帰り住みたまひて又の年の秋ぞ、常陸は上りける。

<現代語訳>

 伊予の介であった人は、故院がおかくれになったその翌年、常陸の介になって下ったので、あの帚木も連れられて行ったのだった。須磨の御退居も遠国で聞いて、心一つにおしのび申さないでもなかったが、お伝え申す便宜もなく、筑波山のあたりからの音便ではふたしかな気がして、ちょっとの噂も聞かないまま年月がたってしまった。期限の定まった御退居ではなかったが、京にお帰りになってその翌年の秋に、常陸の介も上洛した。




<評>