早 蕨
さわらび
<巻名>

<本文>
藪しわかねば、春の光を見給ふにつけても、いかでかくながらへにける月日ならむ、と夢のやうにのみおぼえ給ふ。ゆきかふ時々に従ひ、花鳥の色をも音をも、同じ心に起き臥し見つつ、はかなきことをも本末を取りて言ひかはし、心細き世の憂さもつらさも、うち語らひあはせ聞えしにこそ、慰むかたもありしか、をかしきこと、あはれなる節ふしをも、聞き知る人もなきままに、よろづかきくらし、心一つをくだきて、宮のおはしまさずなりにし悲しさよりも、ややうちまさりて恋しくわびしきに、いかにせむ、と明け暮るるも知らずまどはれ給へど、世にとまるべきほどは限りあるわざなりければ、死なれぬもあさまし。
<現代語訳>
<評>