<巻名>
野宮で御息所と源氏の交わした歌、「神垣はしるしの杉もなきものをいかにまがへて折れるさかきぞ」「少女子があたりと思へば榊葉の香をなつかしみてこそ折れ」による。

<本文>
斎宮の御くだり近うなりゆくまゝに、御息所もの心細く思ほす。やむごとなく、わづらはしきものにおぼえ給へりし大殿の君もうせ給ひてのち、「さりとも」と世の人も聞えあつかひ、宮のうちにも心ときめきせしを、そののちしもかき絶え、あさましき御もてなしを、見給ふに、「まことに憂しとおぼす事こそありけめ」と知りはて給ひぬれば、よろづのあはれをおぼし捨てて、ひたみちに出で立ち給ふ。
<現代語訳>
斎宮のおん下向が近づくにつれて、御息所は何か心細いお気持ちである。ご本妻として、けむたい相手だとお思いなさっていた大臣家の姫君も、お亡くなりなさってからは、「今まではとにかく今度は」と、世間の人もお噂し、御殿の中の人々も胸をおどらせたのに、あれからあとかえってお見えがなく、ひどすぎるなさり方をご覧なさると、「本当にいやだとお思いなさる事があったにちがいない」と分かりきっておしまいになったので、一切の気持ちをおふりすてになり、まっすぐご出発になるのである。
<評>