<巻名>
「少女」は五節の舞姫をいう歌語で、ここでは光源氏が筑紫の五節に贈った歌、「をとめごも神さびぬらし天つ袖ふるき世の友よはひ経ぬれば」、また、夕霧が惟光の娘の五節に贈った歌、「日かげにもしるかりけめやをとめごが天の羽袖にかけし心は」などによる。

<本文>
年かはりて、宮の御はても過ぎぬれば、世の中色あらたまりて、ころもがへの程なども今めかしきを、まして祭の頃は、大方の空の気色こゝちよげなるに、前斎院はつれづれとながめ給ふ。お前なる桂の下風、なつかしきにつけても、若き人々は思ひ出づる事どもあるに、大殿より、「みそぎの日は、いかにのどやかに思さるらむ」と、とぶらひ聞えさせ給へり。
<現代語訳>
年があけて、藤壺の宮の御一周忌も終わったので、世の人は喪服を脱ぎ、更衣の頃なども花やかだが、特に葵祭の頃は、ふと仰ぐ空の眺めも清々した感じがする。だのに、前斎院は所在なく物思いにふけっていらっしゃる。お庭さきの桂の木の下を吹く風が慕わしく感じられるにつけても、若い女房達は思い出す事がいろいろある。そこい大臣さまから「御祓の日はどんなに静かな思いがしていらっしゃる事でしょう」とお見舞いがあった。
<評>