澪 標
みおつくし



<巻名>
住吉詣での折りの光源氏と明石の君の贈答歌、「みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐり逢ひけるえには深しな」「数ならでかにはのこともかひなきになどみをくつし思ひそめけむ」による。





<本文>
 さやかに見え給ひし夢の後は、院の帝の御事を心にかけ聞え給ひて、「いかで、かの沈み給ふらむ罪救ひ奉る事をせむ」と、思し嘆きけるを、かく帰り給ひては、その御いそぎし給ふ。
 神無月に御八講し給ふ。世の人靡(ナビ)き仕うまつる事、昔のやうなり。


<現代語訳>
 まざまざとお見えになった夢からは後は、なき上皇さまのおん事を思い続けていらっしゃって、「なんとかして上皇が苦しんでいられるというその罪障をお救いもうす御追善をいたそう」と、心に嘆いていらっしゃったが、こうして御帰京なさったこととて、早速その御準備をなさる。
 十月に御八講をさなる。誰れ彼れとなく進んでお役にたとうとすること、昔を同じである。





<評>