<巻名>
明石の君の掻き鳴らす琴に響き合う「松風」により、大堰の邸に移り住んだ明石の君たちの寂寥を象徴する。

<本文>
東の院造りたてて、花散里と聞えし、うつろはし給ふ。西の対、渡殿などかけて、まどころ家司など、あるべきさまにし置かせ給ふ。ひんがしの対は、明石の御方と思しおきてたり。
北の方は。ことに広く作らせ給ひて、かりにても、あはれと思して行く末かけて契り頼め給ひし人々、つどひ住むべきさまにて、隔て隔てしつらはせ給へるしも、なつかしう、見所ありてこまかなり。寝殿は塞(フタ)げ給はず。時々渡り給ふ御住み所にして、さるかたなる御しつらひどもし置かせ給へり。
<現代語訳>
東の院を造営なさって、花散里ともうした方をお引き移りおさせになる。西の対や渡殿などにかけて、政所、家司などを適当にお置きになる。東の対は、明石の御方をとお考えでいらっしゃる。
北の方は特に広くお作りになって、ほんのちょっとでも御愛情をお持ちになって、将来までもとお約束なさった人々が、一緒に住めるようにと、仕切をいくつもお作りになったのも、うれしいなさり方、立派な作りで行きとどいている。寝殿は女君をお置きにならず、時々御自分がお出かけになる時のお住まいにして、それにふさわしい設備をなさっていらっしゃる。
<評>