<巻名>
<本文>
春の光を見給ふにつけても、いとどくれまどひたるやうにのみ、御心一つは悲しさのあらたまるべくもあらぬに、外とには例のやうに人々参り給ひなどすれど、御ここちなやましきさまにもてなし給ひて、御簾のうちにのみおはします。兵部卿の宮渡り給へるにぞ、ただうちとけたるかたにて対面し給はむとて、御消息聞こえ給ふ。わが宿は花もてはやす人もなしなににか春のたづね来つらむ宮、うち涙ぐみ給ひて、香をとめて来つるかひなくおほかたの花の便りと言ひやなすべき紅梅の下に歩みいで給へる御さまの、いとなつかしきにぞ、これよりほかに見はやすべき人なくや、と見給へる。花はほのかに開けさしつつ、をかしきほどの匂ひなり。御遊びもなく、例に変はりたること多かり。
<現代語訳>
<評>