<巻名>
光源氏と玉鬘の贈答歌「篝火にたちそふ恋の煙にこそ世には絶えせぬほのほなりけれ」「行く方なき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば」による。

<本文>
この頃、世の人の言種に、「内の大殿の今姫君」、と事に触れつゝ言ひ散らすを、源氏の大臣聞こしめして、「ともあれかくもあれ、人見るまじくて籠り居たらむ女子を、なほざりのかことにても、さばかりに物めかしい出でて、かく人に見せ言ひ伝へらるゝこそ、心得ぬ事なれ。いと際々しうものし給ふあまりに、深き心をも尋ねずもて出でて、心にも適<カナ>はねば、かくはしたなきなるべし。よろづの事、もてなしがらにこそ、なだらかなるものなめれ」と、いとほしがり給ふ。
<現代語訳>
近頃の世間の人の噂の種に「内大臣様の今姫君は」と、何かにつけて誰彼が言いまわるのを、源氏の大臣はお耳あそばして、「何はともあれ、人目にふれないで引きこもっているはずの女の子を、少々の口実はあったにせよ、あれほど大仰に引き取った上で、このように人に見せたり噂させたりするとは腑に落ちないことだ。はっきりしずぎる方だから、事情を詳しくも調べず引っ張り出して来て、それが感心できない者だからこんなにひどい扱いなのであろう。何事もやり方一つで穏やかにすむものなのに」と気の毒がりなさる。
<評>