<巻名>
夕霧が玉鬘に蘭の花を贈って、「おなじ野の露にやつるる藤袴あはれはかけよかごとばかりも」と詠んだことによる。

<本文>
尚侍の御宮仕への事を、誰も誰もそそのかし給ふも、「いかならむ、親と思ひ聞ゆる人の御心だに、うちとくまじき世なりければ、ましてさやうの交じらひにつけて、心より外に便なき事もあらば、中宮も女御も、方々につけて心おき給はば、はしたなからむに、わが身はかくはかなき様にて、いづかたにも深く思ひとどめられ奉る程もなく、浅き覚えにて、ただならず思ひ言ひ、いかで人笑へなる様に見聞きなさむ、とうけひ給ふ人々も多く、とかくにつけて、安からぬ事のみありぬべきを」、物思し知るまじき程にしあらねば、様々に思ほし乱れ、人知れずもの嘆かし。
<現代語訳>
尚侍として出仕なさることを、どなたもどなたもお勧めになるけれど「どしたものかしら、親とお思い申し上げている方のお気持ちさえ安心できないことなのだから、ましてそんな所でお付き合いするにしても、思いがけない困ったことが起こったりして、中宮も女御も、あれこれにつけて自分に対し気まずい思いをなさったら、途方にくれることだろうに、自分はこんな頼りない境遇で、どちらさまにもお親しく願ってからも間がなく、世間からも軽く見られているので、大臣との間柄を普通でないと邪推したり噂したり、なんとかしてもの笑いのたねにして見たり聞いたりしようと呪っていらっしゃる方々も多く、何かにつけて嫌なことばかりあるに違いない」と、分別のないお年頃でもないので、あれこれとお考えがまとまらず、ひとり嘆いていらっしゃる。
<評>