<巻名>
明石の君は娘の姫君へ送った歌「年月をまつにひかれて経る人にけふ鶯の初音きかせよ」によっている。
<本文>
年にたちかへるあしたの空のけしき、名残なく曇らぬうらゝけさには、数ならぬ垣根のうちだに、雪間の草若やかに色づきはじめ、いつしかとけしきだつ霞に、木の芽もうちけぶり、おのづから人の心ものびらかにぞ見ゆるかし。ましていとゞ玉を敷けるお前は、庭よりはじめ見どころ多く、みがきまし給へる御方々のありさま、まねびたてむも言の葉たるまじくなむ。
<現代語訳>
年の改まった元日の朝の空の様子、一点の曇りもなくうららかゆえ、つまらない家でさえ、雪の消え間に草がいきいきと緑の色を見せはじめ、待ちかねて春らしく立つ霞に、木の芽も萌え出て、それにつけて人の気持ちものんびりとした感じがするものである。まして玉を敷き並べ美しく磨きたてた六条の院では、庭をはじめとして見ごたえが多く、不断より一層美しく飾り立てなさったご婦人がたの住居のありさまは、形容のしようもなく、言葉が足りないであろう。
<評>