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作品名・作者名 あらすじ 表 紙
感想文
おすすめ度・評価
『サルトル』

村上嘉隆(清水書院)
実存主義として有名な哲学者サルトルについての書である。彼の子どもの頃からの経験、いかに彼の思想に大きな影響を与えたかが、非常に良く分かる。特に彼の思想のキーワードは「存在」「他社性」「超越」などがあるが、彼の思想の奥深い部分については、やはり彼の著作を読んでみなければ分からないだろう。いずれにしても、まず彼の育った環境(人生)から思想の大枠を把握するにはこの書は最適である。
★ ★ ★ ☆ ☆
『カルチュラル・スタディーズ』

吉見俊哉(岩波書店)
ここ数年問題とされている「文化」に関する研究文献の、一般読者向けに出版されたものである。内容としては、主にカルチュラル・スタディーズの研究史が中心に書かれている。またこの分野の研究が、いかに私たちの日常生活に密接したものであるかを、非常に強く説いている。しかし、僕だけかもしれないが、一般読者向けにしては、語句の説明が少な過ぎるような気がした。よって、理解できずに終わる部分も多々あった。
★ ★ ☆ ☆ ☆
『永遠なれ日本』
中曽根康弘・石原慎太郎
(PHP出版)
★ ★ ★ ☆ ☆
『3日で分かる古典文学』
大橋敦夫・西山秀人
(ダイヤモンド社)
僕はこの手の本(〜日で分かる!)が嫌いなので、どれくらいくだらないことが書いてあるのかと思って読んでみたら、意外にも面白い本であった。有名な作品に限ってだが、しっかりと基本的なこと(入門的なこと)は書いてあった。少し古典文学に触れてみたいという人にはお勧めである。ただ、3日で分かるというのは少し言い過ぎであると思った。
★ ★ ★ ☆ ☆
『ライ麦畑でつかまえて』
J.Dサリンジャー
(白水Uブックス)
学校を退学になった主人公コールフィールドは、あらゆる人間を否定し、あらゆる物事に反抗するということで子供から大人への移行期を生きる少年である。しかし同時に大きな孤独感を持ち、学校を出てから実家に帰るまでの数日間をホテルを利用して過ごしているが、その間多くの人に電話をかけたり逢ったりして孤独感を打ち消そうとするが、そのたびにそれは失敗に終わり、残るは後悔だけであった。最終的に彼は、だれも知っている人のいない遠くに行こうとするが、妹のフィービーに止められ何も解決しないまま物語は終わっていく。
この書は長い年月の間、多くの人々に親しまれ名作と言われた作品だが、僕としては読んでみてそれほど共感できる作品ではなかった。もちろん文体の独特なリズムには、非常に興味深いものがあったが、主人公の心情に対しては、何も同調できるものはなく、ただ読み終わったという感情しか持てなかった。もっと年齢の若い高校生などが読むとまた違った感情を抱くのかもしれない。
★ ☆ ☆ ☆ ☆
『春の雪』
(『豊饒の海』第一巻)
三島由紀夫
(新潮文庫)
侯爵の息子松枝清顕と伯爵の娘綾倉聡子の二人は、愛し合いながらも清顕がそれを表面に出せずに 結局は、聡子が天皇家と結ばれるべく勅許がおりる。そこにきて初めて清顕は自分が聡子を心から愛している ことに気づき、勅許のおりた聡子と関係を持ってしまう。そして聡子は妊娠し、侯爵家と伯爵家がその処置 を考えている最中、聡子は突然剃髪する。もちろん、聡子の結婚は中止になり、また清顕との逢瀬も二度と しないと誓うのである。しかし、清顕は聡子に会いたくて仕方がない。病にかかりながらも、聡子に会いに 行くが、結局会えずに清顕は病により死去するのである。
この作品を読んでいると、ふと『源氏物語』を思い出す。それは、清顕 と聡子の禁忌が、光源氏と藤壺との禁忌に重なるところがあると思うからだ。そして両者の間を取り持った 蓼科が、王命婦と重なる。さらに、聡子の突然の剃髪は、藤壺の法華八講の最終日にした突然の出家との 重なってくる。これについては、もっと調査が必要であろうが、今まで読んだ三島の作品の中では一番 魅力のある作品であった。
★ ★ ★ ★ ★
『城の崎にて』
志賀直哉
(角川文庫)
山の手線に跳ね飛ばされた主人公が、その養生も兼ねて城の崎で3週間ほど過ごす。その中で 蜂や鼠、そしてイモリの死を目前として、偶然死んだ虫たちと偶然死ななかった自分との境遇を見つめ る短編小説。
志賀直哉の『城の崎にて』と『焚火』は一般に、近代日本の短編小説 の一つの様式を確立したものと考えられている。またこれらの作品は、心境小説とも呼ばれている。心境小 説とは、大正後期に成立したもので、文学を心境の錬磨という一点で追究する小説群。志賀直哉によって 完成され、実生活の危機を切り抜けた克服の文学である。今日では、この小説群を多少非難を込めて呼ぶ 場合もあるが、この作品はそれらとは違う美しい作品である。
PS 僕は今年の夏、『城の崎にて』の舞台となった城の崎温泉に行ってきました。とても落ち着いた 所でした。
★ ★ ☆ ☆ ☆
『仮面の告白』
三島由紀夫
(新潮文庫)
幼い頃からひ弱な主人公が、同級生の男子に初恋することから自分が女性に対して不能であること を発見する。しかしながらそれだからといってすぐに同性愛者ということにはならず、女性に対しても 興味がないわけではない。ただ女性に対して肉欲を感じないだけなのだ。そんな中で園子という女性に 出会い、二人は恋に落ちて行くのだが、主人公は意外に消極的になっていて、最終的にこの恋は成就せずに 終わってしまう。
三島の作品は今まで『金閣寺』『潮騒』『憂国』などを読んだが、 彼の作品は非常に難しいというイメージがある。この作品も異色ではなく、まず主題がとらえにくい。 主人公が一体どういう愛のかたちを追求していたのかすら分からずに終わってしまう。僕の考えでは 主人公は園子を心から愛していたのではないかと思う。しかしその反面、「死」への欲求があり、それとの 葛藤によって、もがき続けて結局その愛を失ってしまったのではないだろうか。男性に対する好意の眼差し は、まさにこの「死」への欲求の一端であると思う。これは三島自身の欲求でもあり、この作品は作者 三島由紀夫の告白小説と読むことができるであろう。主題がとらえにくいにもかかわらず、非常に魅力ある 作品である。
★ ★ ★ ☆ ☆
『砂の女』
阿部公房
(新潮文庫)
ある男性教師が、休暇をとって趣味である昆虫採集に出かけて行く。その場所は一面、砂漠のような 所であった。そこでひょんなことから一泊することになった男は、砂に埋まった家に泊まるのだが、結局 そこの女主人と村の人々の策略にかかり出られなくなってしまう。あらゆる脱出を試みるがすべて失敗。 最終的に砂の中から水を発見するが、脱出することはできずに終わる。
僕は阿部公房の作品をはじめて読んだのだが、その奇妙さにまず驚いた。 しかし、非現実的な世界を描いている作品であるにもかかわらず、これはその場面がはっきりと目に浮かんで くる不思議さを持っている。最後に砂の中からの水の発見により真の状況認識が可能になって物語は終わる のだが、これがはたしてハッピーエンドなのかどうかすら分からない作品である。しかし魅力ある作品で あるには変わらず、とにかく不思議である。
★ ★ ★ ☆ ☆
『破戒』
島崎藤村
(新潮文庫)
部落出身の教員である瀬川丑松は、父親に部落出身であることを隠すように言われていたにも かかわらず、部落の解放運動をしていた猪子蓮太郎との出会いそして彼の死に刺激され、ついに 自分が部落出身であることを生徒の前で告白する。それによって丑松は社会から追放され、テキサス へ旅立っていくことになる。
この物語の中心をなす部落問題は、現代ではあまり話題にならないものである。それは とてもいいことなのだが、現代はまた別の差別問題が多々ある。例えば女性差別や障害者に対する 差別。また大きくみればいじめ≠烽サの中に入るであろう。それらの問題と置き換えながら この作品を読むことは、たいへん意味のあるものだと思う。主人公である丑松は、テキサスへ いわば逃避することになるのだが、我々は、問題から逃避せずに解決する道を見出さなければ ならないと思う。
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