『』

()
作品名・作者名 あらすじ 表 紙
感想文
おすすめ度・評価
『日本の歴史(2) 飛鳥・奈良時代』
吉田孝
(岩波ジュニア新書)
この本は、その名の通り飛鳥・奈良時代の日本の歴史の本である。推古天皇の誕生から桓武天皇直前までを扱ったもので、主に天皇を中心に時代を追っていく構成である。ジュニア新書であるので、内容も非常に分かりやすく、かつ専門的な事柄も扱っているので、大変満足感を得られる書である。そして、まだ論のわかれている事柄について筆者の説も述べられているので、僕のような歴史に疎い者でも楽しんで読むことができる。今はこの次のシリーズを読んでる最中である。
★ ★ ★ ☆ ☆
『魔法のチョーク』
安部公房
(新潮文庫『壁』所収)
主人公であるアルゴン君は、今ではもう貧乏な画家で、食べるものを買うために絵を描く道具まで売ってしまった。そんなアルゴン君のアパートに、ある日一本のチョークが落ちていた。それを拾った彼は何気なく壁に食べ物などの絵を描いてみると夜になるとそれが現実のものとしてあらわれる。それに驚き喜んだ彼は、この現象は夜でなくとも「闇」があれば起きるものであることに気づく。そして部屋を密閉することによって、常に「闇」を作りだし、チョークで絵を描いてはそれを食べていた。しかしある時、新聞に載っていたミスニッポンを絵に描き、現実にあらわれさせると、その女性はそこから逃げるべくドアを破壊してしまう。そのことによって「光」が入り込み、今まで壁の絵を食べていたアルゴン君はその成分に毒され壁に同化することになってしまうのである。
 安部公房という作家が『砂の女』を筆頭に、SFチックな非常に面白い作品を書く作家である。この作品も一本のチョークがもたらす奇妙な現象を、とてもリアルに描いている。現実よ非現実の二項対立で、やはり現実に勝るものはないということを痛切に感じる。特に最後の場面でアルゴン君が壁同化してしまうところなどは面白いところである。
★ ★ ★ ☆ ☆
『夢判断』
秋山さと子
(講談社現代新書)
ユングやフロイトの研究に一生を捧げた秋山氏が、素人(初心者向けに書いた夢分析についての著作。フロイトに多少興味を持ったのでこの本を購入し読んでみたのだが、中には漱石の『夢十夜』にあらわれた夢についての分析や、身近にある夢についての分析など非常に興味深いことがたくさん記されていた。これを読むと、夢というものが偶然の産物ではなく、意図的なものであることがとてもよく分かる。ただ夢を分析するにあたっての危険性というものも筆者は述べており、夢を扱う時には、より慎重にならなければならないと書かれていた。いずれにしても夢に興味を持った人は、是非読んで貰いたい本である。
★ ★ ☆ ☆ ☆
『人と思想 フロイト』
鈴村金彌
(清水書院)
今回、フロイトについて読もうと思ったのは、9月に行った院生の 研究会のシンポジウムで、「夢」について扱い、それに興味を持ったからである。「夢」というものに 本格的に分析・調査しはじめたのはフロイトである。彼の「夢」に関しての理論の中心は、エス (人間の心の無意識の部分)であり、幼年時代の体験のうち、とくに抑制されたもの、エス≠ノ封じ こめられてしまった欲動、忘れ得ざる体験が「夢」の材料としてフロイトが最も重要視している。そして 様々な「夢」の分析は今もなお生きているものであると思われる。この書で、多少フロイトという人物に ついて理解できたと思うが、やはり本当に彼を理解するためには、直接彼の著作にあたらなければならない と思った。特に『夢の解釈』など……。
★ ★ ☆ ☆ ☆
『人と作品 宮沢賢治』
福田清人編
     岡田純也著
(清水書院)
以前何度も述べたと思うが、趣味的な意味で、僕は大変宮沢賢治が 好きである。「なぜ?」と聞かれても、別段答えはないのだが、とにかくなんとなく好きだ、としか 言いようがない。そこで今回、彼の生涯についてもっと知りたいと思い、この書を手にしたのだが、 その期待を裏切らない、とても感動する書であった。宮沢賢治という人物を、どこまでも肯定的に述べる でもなく、多少批判的な眼を持ちながら、書かれているこの書は、宮沢賢治がどのような生涯を送ったのか とてもよく理解できるものであった。もちろん、全てが事実であるかどうかは他文献と比較しなくては ならないが……。ともあれ、彼の献身的な生き方というものは、人々を感動させるに値するものである。 そして生前、彼の作品がほとんど世に認められなかったことが残念でならない。
★ ★ ★ ★ ☆
『憑霊信仰論』
小松和彦
(講談社学術文庫)
この本は、ちょうど僕が修論で『源氏物語』の登場人物である 六条御息所を扱うということから、霊について調査しなければならなくなり、それにともなって読んでみた 本である。それゆえ始めはたいした興味もなく読んでいたのだが、途中から論文とは関係なく面白いと 思ってきた。内容は当然、憑霊や妖怪についてが中心であるが、用例などで現在でもこのようなことを 信じて生活している地域の人々がいることが分かり、ちょっと驚いた。しかし、内容が多少難しいので、 今一度読み直さないとしっかりとした把握ができそうにない。一般向けの本としては無理があるように 思った。
★ ☆ ☆ ☆ ☆
『もののけと日本人』
武光誠
(KIBA新書)
この本は、僕が修士論文で『源氏物語』の登場人物である六条御息所を 扱うことから、もののけについて調べようと思っていた矢先、偶然新刊で出版されていたので購入したものである。 その書の中には古代から現代までに至る、日本人の「もののけ・霊」に対する考え方を、様々な作品の 中からおっていくというものである。その話自体は非常に面白いのだが、ほとんどが作品紹介みたいな もので終わってしまい、筆者の意見というものが少ないということがちょっと難点。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『月と六ペンス』
モーム
(新潮文庫)
語り手である「僕」が、過去に出会った奇怪な人間ストリックランドの生涯を振り返ったもの。 ストリックランドは、幸福な夫婦生活を突如捨て、画家への道を歩み始める。その中で命の恩人の妻を奪って、 やがてその女性を自殺に追い込んだりしながら、誰の意見も受け容れない性格で、売れるはずのない絵を 書き続ける。もちろん貧乏生活で、たまに僕に会いに来てはお金を借りたり、様々な話しをしてりして、 また突然消えてしまう。やがてストッリクランドは、自分の安住の地を見つけだす。タヒチである。 そこで病魔と戦いながら、壮絶な生涯を閉じるのである。彼の死後、生前売れるはずもなかった絵が、爆発的な 値段で売れるようになる。
普段あまり外国文学を読まない僕が、なぜかこの作品には魅力を感じて いて、いつか読みたいという願望があった。それを果たした今、やはり僕の期待を裏切らない作品であった と思っている。
この作品はモームが画家であるゴーギャンの伝記を読んで、これを書こうと思ったものであるらしい。そし て文庫の解説でも述べられている通り、この作品はあたかも実話であるかのような感じを受けるものである。 つまり小説らしくないのである。それに対して当時はかなり批判があったらしいが、僕自身は非常にうまい 書き方であると思う。おそらくフィクションでありながら、ゴーギャンという実在の人物を多分に意識した からこのようになったのであろう。それにしてもストッリクランドという不可解な人物をよくも書き上げた ものである。
★ ★ ★ ★ ☆
『本田宗一郎 「一日一話」』
PHP研究所編
(PHP文庫)
僕は、特別ホンダが好きだというわけではないが、本田宗一郎という 人間には非常に興味がある。あの成功の秘訣はいったい何なのだろうか?そんなことを知りたくて、そして 彼という人間を知りたくて、この本を読んだ。実際読んでみると、やはりいいことをたくさん言っているが、 本当にここに書かれていることを実行してきたのかは、多少半信半疑であるが、それを半分に受け取っても やはりすごい人間だと思う。ここで、僕の感動した彼の言葉を一つ記しておく。
勇気というのは、強いからとか、勇ましいから勇気があるというのではない。たとえ、自分にとってどんなに 不利な結果になろうとも、自分が真実であり、妥当であると考えたことを認め、それに賛成することこそが 勇気である。
★ ★ ★ ☆ ☆
『平安の春』
角田文衛
(講談社学術文庫)
この本は物語ではないので、あらすじは記さないが、専門に研究 している人だけでなく、一般の人々にも広く楽しんでいただける著書ではないかと思う。多々出版されている 歴史書とは違い、普通耳にすることのない裏話などを寸断に盛り込んだ著書は、著者はあとがきで述べて いる通り、文章が非常に平易であるので読みやすい。難しいジャンルの書でありながら、それを感じさせない ところにもこの著書の特色があると思う。内容自体は、平安時代の全ての事項について触れたものではない ため、時代の全体像を把握することはこの書から難しいが、部分的なものであるにせよこの著書は大変 魅力のあるものであった。
★ ★ ☆ ☆ ☆