平ヶ岳 ひらがだけ)  

264 2015/7/25(土)、26(日) 平ヶ岳2,141m 日本100名山




中ノ岐(なかのまた)林道  燧(ひうち)ヶ岳  武尊(ほたか)山  巻機(まきはた)山


奥只見に山頂部が平坦な山がある。山名は体を表す。平ヶ岳。山頂部には池塘をちりばめた幾つもの湿原があるものの、この山を訪れる登山客は少ない。かつて、日本100名山中最も路程が長い山のひとつと云われ、アプローチも長いためだろう。鷹ノ巣から登る登山道は路程10時間のロングコース。然るに、知る人ぞ知る中ノ岐林道から上るルートがある。皇太子ルート。殿下が登るにあたり、整備された路程5時間半の登山道は、今ではどの山地図にも記載されている。

連日の猛暑を避けて、いっときの涼を求めて山へ逃げ出す。前泊は魚沼市銀山平の伝之助小屋。銀山平は過去二度の繁栄した時代があった。江戸時代に銀鉱が発見され、坑道を掘り進んでゆくうちに只見川に突き当たり崩落、あえなく廃鉱になった。これが銀山平という地名の由来。近年、奥只見ダムの電源開発が始まり、また脚光を浴びた銀山平。豪雪地帯に造成された工事車両用のトンネル道路が、今では奥只見シルバーラインと名を変え、一般道として供用されている。

山岳ツアーは男女10名ずつ、総勢20名。山の朝は早い。3時起床、朝と昼のおにぎりを受け取り、2台の送迎バスに分乗する。350分出発。午後には夕立があり、平ヶ岳沢は増水して渡渉できなくなるので、昼までには下山すべしとのこと。まだ暗い国道253号を、湖畔に入り組んだ入江に沿って、車体を右に左に揺らして突っ走る。雨池橋でゲートを開けて中ノ岐林道に入る。銀山平の旅館組合が管理するこの林道は、銀山平に宿泊したハイカーだけが利用できるのだという。

立枯れのネズコの大木 ここでひと休み 玉子石 湿原に点在する池塘群


中ノ岐林道を走る小型バスは、車体をきしらせて今度は上下に大きく揺れる。法面に落下する大小の滝。数十mも落下する滝水、高みから沢水が岩を滑り下りるナメ滝。薄明かりで定かには見えないが、帰路の楽しみだ。中ノ岐川から平ヶ岳沢の左岸を遡って50分、林道終点に到着する。そこには既に3台の送迎バスが駐車。水場がある。簡易トイレもある。夜が明けて出発。道標もない平ヶ岳の登り口は、涸沢へ降ってゴーロを歩き、平ヶ岳沢に架かる二連の木橋で沢を渡る。

木橋を渡るとここにも水場がある。2時間の急登につぐ急登が始まる。ひたすら上る深くえぐられた登山道は、広葉樹林の灌木帯。濡れた赤土、露出した木の根の階段、大きな段差。纏わりつくブヨやアブ。標高1400m地点に、木に吊り下げられた鐘がある。愛の鐘に非ず、熊除けの鐘。シャクナゲに囲まれた立枯れのネズコとゴヨウマツの大木がある。ここでひと休み。吹く風が火照る身体に気持いい。平ヶ岳沢の渓谷を挟んだ対岸は剣ヶ倉山、その中腹に張り付く雪渓が見える。

途中休憩は3回。登山道に露岩が増える。ダケカンバの広葉樹林はオオシラビソやツガの針葉樹林に変わる。ハイマツが増えオオシラビソの樹高が低くなる。傾斜が緩んで木道が始まる。森林限界を越える。突然視界が開けて広がる山上台地。高山植物が咲き乱れる季節は過ぎて、湿原はただの草原。正面になだらかな平ヶ岳。玉子石分岐。左へ池ノ岳、右へ玉子石。木道脇にザックをデポして小高い丘へ登れば、シャクナゲとオオシラビソに囲まれた奇岩、玉子石が鎮座する。

姫ノ池の湿原と池塘 後方が平ヶ岳 平ヶ岳山頂標識と二等三角点


玉子石といえば、森吉山の冠石と全く同じ形をした石。ひとつの花崗岩でできている玉子石と土台の岩は、花崗岩の節理(割れ目)にそって風化が進み、節理に囲まれた塊の芯が残ったのだそうだ。玉子石もさることながら、越後三山の越後駒ヶ岳と中ノ岳を背景にして、湿原に青い夏空を映した池塘群が広がる。分岐まで引き返して池ノ岳へ向かう。二つの池塘のへりを通過、残雪の雪溜まりを怖々下る。キャンプ場の上部を上って池ノ岳。湿原の中に広がる見事な池塘がある。

南へ眼を転じればこんもりと平ヶ岳。その左に尾瀬の燧ヶ岳。後方に日光連山と武尊山。この季節に見えるのは珍しいという富士山!平ヶ岳を目指してツガの廊下と呼ばれる鞍部まで下る。伸びきれないオオシラビソやシャクナゲの樹林を抜け、上り返して湿原を緩やかに上る。平ヶ岳の山頂部が平坦なのは、この山をとりまく巻機山、会津駒ヶ岳などの山頂と同様に、太古の昔、大平原の一部だった平ヶ岳は隆起し、侵食される以前の平らな地形を留めていると考えられている。

木道の途中に越後三山只見国定公園との案内板がある。その10m北側に、オオシラビソに囲まれた山頂標識と二等三角点がある。木道をそのまま進んだところが平ヶ岳の最高点。無数の池塘が散在する大湿原に目を奪われる。山上で遊弋していたアカトンボの大群が、突然山を降ってゆく。風にたなびくワタスゲに見送られて平ヶ岳を後にする。キャンプ場の下部に、平ヶ岳沢の源頭となる水場がある。玉子石分岐から往路を戻る。恐怖の下りが待ち構えているのも知らずに。


快晴 銀山平に前泊 毎日旅行、山岳ツアー 歩行距離=88km 歩行時間=4時間55

7/25(土)
新宿駅西口930⇒(ツアーバス)⇒関越道、小出IC⇒奥只見シルバーライン⇒1430奥只見湖1500⇒(遊覧船)⇒1540銀山平⇒1610伝之助小屋
(伝之助小屋泊)

7/26(日)
伝之助小屋350⇒(伝ノ助送迎バス)⇒国道352号⇒中ノ岐林道⇒500平ヶ岳登山口
平ヶ岳登山口515→(途中休憩3回、50分)→805玉子石分岐815820玉子石830850池ノ岳(姫ノ池)900930平ヶ岳1000→(途中休憩、1時間)→1300平ヶ岳登山口
平ヶ岳登山口1320⇒(伝ノ助送迎バス)⇒中ノ岐林道⇒国道352号⇒1430伝之助小屋1440⇒(ツアーバス)⇒奥只見シルバーライン⇒1510大湯温泉、入浴1610⇒関越道、小出IC2025新宿駅西口