高田大岳たかたおおだけ

237 2013/7/3(水) 高田大岳 1,552 (敗退)




小岳(こだけ) 仙人岱(せんにんたい) 酸ガ湯(すがゆ)温泉


北八甲田に高田大岳という山がある。八甲田大岳に次ぐ標高の山。高田大岳は八甲田随一の展望を誇ると雖も、訪れる登山客は稀らしい。理由は悪路のため。上り始めはV字型に洗くつされた樹林。洗くつとは石油や土木の業界用語、土砂が洗い流されること。標高1,000m付近は足首が埋まるほどのぬかるみと水溜りが続く。ハイマツ地帯に入れば草木や根を掴んで身体を引きあげる急登だという。予定は谷地温泉を発ち、高田大岳から小岳を縦走、酸ガ湯温泉へ降りる。

谷地温泉で迎える朝、窓辺を搏つ雨の音で目覚める。谷地温泉は古くからある温泉湯治場で、八甲田高田大岳への登山口にも便利な一軒宿。総ヒバ造りの浴槽は、霊泉と言われたぬるめの下ノ湯と、硫黄分が含まれた白濁の硫黄泉、上ノ湯との2本の源泉がある。効能は腰痛・アトピーとか。廊下をきしらせて食堂へ。出立する頃には雨は止む。それでもと雨用に身支度を着替える。レインウェアにザックカバー。ぬかるみ対策として登山靴は仕舞って用意した長靴を履く。

谷地温泉 晴れていれば正面に高田大岳 高田大岳登山口


宿の東側には谷地湿原が広がり、奥には黒森山が聳える。さて駐車場の奥が登山口。谷地湿原への遊歩道と分かれ、花咲く湿地帯を板敷きに乗って歩く。ブナの森に入る。赤いリボンテープに導かれて赤土の洗くつされた掘割を上る。登山者カウンターを通過。登山ルートを正確に踏んでいるのはこの辺りまで。気付くと薄い藪を漕いでいる。踏み跡は消えテープの目印すらない。引き返す気は全くなく、なあに高みを目指して上ればいいのさ。どうだ、この傲岸不遜な態度は。

樹相はブナからアオモリトドマツに変わる。かなり激しく雨が降ってきた。標高1,000m付近、傾斜が緩み藪は濃くなる。背丈ほどのチシマザサや木の枝と格闘、藪を分ければ舞い上がるゴミの中から飛び出した虫共の歓迎に遭う。後刻、顔と首筋に赤く腫れあがる。ウグイスが唄えばエゾハルゼミがムードを壊す。せせらぎが聞こえる。ミズバショウが咲く群生地がある。樹木越しに、南斜面に残雪が貼り付いた高田大岳を仰ぎ見る。前方、密集した笹の間から窪地に残雪が見える。

残雪を踏み抜く 凍った表層その下は空洞 樹林から覗く高田大岳


それは一瞬にして起きた。凍った残雪の上を歩いていると、突然、表層を踏み抜いた。痛い!陥没した氷の穴から右足をそっと引き抜く。踵を捻挫したようだ。残雪の表層は凍結し、下部は底から融けて空胴なのだ。立ち上がると大した痛みではない。腫れや痛みがひどくなる前に戻ろう。踵を保護する登山靴を履かずに、柔らかいゴム長を履いているからなのだろうか。登山道を見失ったまま、なんとかなるさ、と傲慢に山登りを続けた報いなのか。振り向けば恨めしい高田大岳。

谷地温泉は麓の一点、辿り着くことなど奇跡に思える。どうやって上ってきたか記憶も痕跡もない。また遮二無二藪と格闘。振り向いて高田大岳を見ると、なんと西へ向かっている。東に向きを変える。おや、ぬかるみを発見する。そこに靴跡がある。リボンマーカーもある。これはまさしく登山道だ。今度は慎重に、踏み跡を見失えば後戻りしてマーカーを探す。標高900m付近からは赤土がV字型に洗くつ。登山者カウンターを通過、間もなく谷地温泉。かくして奇跡の帰還は成った。


雨 谷地温泉に前泊 単独行 歩行距離=34km 歩行時間=4時間40

予定では 谷地温泉→高田大岳→小岳→仙人岱→酸ガ湯温泉 のところ
谷地温泉720(標高1,000m付近で敗退)→1200谷地温泉
谷地温泉1234⇒(JRバス東北、みずうみ5号)⇒1404新青森駅