にゅう          

235 2013/6/9(日) にゅう 2,351m




梅雨入り宣言はされたもののさっぱりお湿りはない今年の梅雨。梅雨の晴れ間ににゅうに登る。えっ、にゅうってなんだ。にゅうとは山の名。北八ガ岳、白駒池の南にある岩峰の山。刈り入れ後、稲束を積んだものを「にお」「にう」と呼び、山容が似ていることが山名の由来だという。相客が八千穂高原自然園で降りると、僕ひとりだけを乗せた路線バスは、車体をきしませてメルヘン街道を駆け上がる。新緑の林はカラマツ林、シラカバ林。61カーブを回りきると白駒池入口に到着する。

白駒池入口駐車場で身支度を済ませ、北八ガ岳自然休養林、白駒の池と大書された標柱を抜けて森の中へ吸い込まれる。オオシラビソ、コメツガ、トウヒの森、林床を覆う苔。幅広の木道を散策する観光客、青苔を接写するカメラマン。10分も歩けば満々と水を湛えた白駒池。この池は八ガ岳湖沼群のうち最大にして、標高2,000m以上の高地にある湖でも日本一だという。秋には湖面に映る見事な紅葉、冬には本州で最も早いスケートリンクに変身するらしい。白駒荘を通過する。

白駒池 苔蒸すオオシラビソの森


白駒池の南岸を離れてオオシラビソの樹林に入る。ほぼ平坦な道。木道が尽きて露岩の道、朽ちかけた丸木の木道。樹林の中に湿原が現れる。白駒湿原。湿原は草原と化し、咲く花はない。悪路は続く。露岩を避けて或いは飛び石伝いに歩く。水溜り、ぬかるみ。あれ、シャーベット状の残雪にご用心。原生林ににゅうの森という看板が立つ。<代表する苔の名前はミヤマクサコケ。林床の倒木や木の根元などにマット状の群落をつくる中型の苔。茎は這って羽状に枝を出す>

にゅうへの分岐に差しかかる。そこには三つの道標が立ち、標示が皆異なる。「にゅう」「にう」「ニュー」 標示に従って右折する。にゅう山頂まで標高差200mの上りが始まる。張り出した木の根、露岩につぐ露岩。露岩帯はとかくルートを失いがちになる。気が付けば踏み跡を見失ってコメツガの幼木に囲まれている。下山してきた中年夫婦の眼の前に、藪を漕いで戻ってきた僕。さては雉を撃ってきたのかと怪訝な目付き。主稜線からの道に合流すると樹林が開けて上方が明るい。

にゅうは大岩峰の山。積み重なった最後の大岩を攀じ登って山頂へ。左から巻いて楽に上れるルートを知っても後の祭り。三角点の前にある岩に墨書された<にゅう2351これが山頂標識か。思い思いの岩に腰掛けて食事中の登山者5名。展望は四方に広がる。大絶壁の稲子岳の後方に、残雪の天狗岳と硫黄岳。その左肩にうっすらと富士山を遠望する。北に見下ろす緑の樹海に白駒池。後方には縞枯山、茶臼山。聳える蓼科山、北横岳。東に霞む奥秩父、佐久の山々。

にゅう山頂からの展望 稲子岳の後方左に硫黄岳、その右は東天狗と西天狗


見飽きぬ展望はそれまで。主稜線の合流点まで下る。気持ちいいシラビソの森、稲子に向かって緩やかに下ればまた残雪を踏む。十字路に出る。左は白駒池、直進は白樺尾根。右折して稲子湯へ向かう。掘割状にえぐれた急坂を下り、落葉を踏みしめ美林を抜ける。ダケカンバ林から硫黄岳を垣間見る。暗い苔蒸す急斜面を下る。地図に記された白駒林道を辿っている筈なのに獣道のような隘路。確認しようにも道標も展望もない。赤いリボンを見つける度に束の間の安堵。

涸沢を右岸に渡り、沢を離れて石楠花尾根に乗る。雰囲気は一変する。樹相はツゲ、モミ、アカマツが目立つ自然林。香しい松の落葉、山を彩るヤシオツツジ。石楠花尾根といっても自生するシャクナゲは少ない。巨岩を回り込んで林道を横切り、唐沢峠から稲子湯へ到着。日曜なのにひっそり閑とした温泉宿。「日曜は客足がなく、月曜が一番の出足。金曜と土曜は泊まり客が少々。311地震以来、客足は遠のいている」とは宿の主。アベノミクスは山の温泉宿には無縁のようだ。


晴 単独行 歩行距離=66km 歩行時間=4時間40

長野新幹線、佐久平駅835⇒(千曲バス)⇒1015白駒池入口
白駒池入口10251035白駒池北西岸→1045白駒池南岸10501100白駒湿原→1145にゅう分岐→1155にゅう12201305石楠花尾根・白樺尾根との十字路→1340涸沢→1435林道→1455唐沢峠→1505稲子湯
稲子湯1612⇒(小海町営バス)⇒1652JR小海線、小海駅