雁ガ腹摺山がんがはらすりやま

233 2013/5/9(木) 雁ガ腹摺山 1,874m → 姥子山 1,503m




百軒干場(ひゃっけんほしば) 鶴ガ鳥屋山(つるがとややま) 大岱(おおぬた)山 遅能戸(おそのと)


見上げれば雁がV字型の編隊を組んで飛んで行く。それは子供の頃によく見かけたものだ。鳴きながら雁が東へ飛び去るのはなにも上州、赤城山の話ばかりではない。甲州には雁峠や雁坂峠がある。よくぞ名付けた雁ガ腹摺山という山もある。しかも三山。紛らわしいので笹子トンネルの真上の山を笹子雁ガ腹摺山、大菩薩嶺から派生する小金沢連嶺の山は牛奥ノ雁ガ腹摺山、大峠を挟んで黒岳と対峙する山を雁ガ腹摺山と呼んで区別する。今日はこの雁ガ腹摺山に登る。

雁ガ腹摺山に登るには、真木小金沢林道の大峠から登れば、僅か1時間で山頂に立てる。これが今や主流。それでは食い足りないと金山鉱泉からクラシックコースを登る。金山とはその名のとおり武田領の金鉱のこと。鉱泉は金を採掘する人達の療養の湯だったという。さて、タクシーは金山鉱泉、山口館の100m先まで乗り入れる。既に1台のマイカーが駐車中。登山届箱と案内板がある。標高差1,200m、歩行距離15km。最近とみに体力が落ちてきた我が身にはちと辛い。

金山峠まで、林道を辿るのが沢コース、すぐ沢に降りるのが尾根コースとは面白い。最後の民家を通り過ぎると遅能戸林道の悪路が始まる。路面に散らばる落石はまだしも、ガードレール共々路床の崩落個所もある。林道は山道に変わり、ほどなく山道から10m下の沢へ下りる。急斜面の上、濡れた石と土。ここは慎重に降る。土沢は細くとも激しい流れ。小さな滝もある。貧弱な木橋を幾度も渡り返す。沢を詰める意外にしっかりしたトレイル。杉の間伐材が行く手を塞いでいる。

雁ガ腹摺山頂から見る富士山 白い空に溶け込
み霞んでに見える 手前は三ツ峠山、滝子山
姥子山頂 右は大樺ノ頭から続く楢ノ木尾根 


沢を遡ること30分、沢を離れて杉林に入る。そこは山腹に付けられた山砂の隘路。掴む物のない斜面はずるずると滑る。しかも時々トレースは消える。冷や汗が収まると杉林を急登して吹き出る熱い汗。最後はじぐざぐに上ると尾根に出る。金山峠、尾根コースとの合流点。ここからは道標どおりに歩けば迷うことも危険もない登山道。新緑が眩しいミズナラの樹林帯。双耳峰の姥子山、遠く雁ガ腹摺山を垣間見る。尾根道を緩やかに下ると右下に奈良子林道の支線が見えてくる。

百軒干場という小広場から林道を歩く。菅沢を渡り畑倉用水水源地なる大看板を通過する。右手に雁ガ腹摺山への取り付きがある。その名のとおり「登り尾根」と呼ばれる急斜面が続く尾根道。辛い急坂を上れば次は緩やかな山道になるのが救われる。樹林は自然林からみずみずしい新緑のカラマツ林へ。遅咲きのミツバツツジ、可憐に花咲く黄色いスミレ、薄紫のスミレが目を楽しませてくれる。巨岩を通過。姥子山がぐっと近くに見える。鉄製の階段を上ると奈良子林道に出る。

林道を横切って丸木の階段を上る。この辺りでは芽吹き未だしのミズナラ林、そこに自動雨量計がある。ほどなく姥子岳分岐、白樺平。ダケカンバは散見するがシラカバは見当たらない。カラマツとコメツガ林の中、巨岩を縫って上る。あれはガマ石。傾斜が緩むともう山頂の一角、明るいカヤトの草原に出る。人声がする、標柱が見える。やっと着いたぜ雁ガ原摺山。山頂は鬱蒼としたコメツガにぐるりと囲まれ、西側だけが開けて滝子山、本社ガ丸、三ツ峠山の奥に富士山が見える。

姥子山は展望の山 右端の富士山は白く霞んで見えない 中央左右の山は御正体山と三ツ峠山


惜しむらくは季節が悪い。白い空にうっすらと見える富士山。山頂標識、山梨100名山の標柱、大月市秀麗富嶽12景の説明板、500円札の説明板もある。12景といっても全18山、そのうち雁ガ原摺山は1番山頂だってさ。旧500円紙幣に描かれた富士山はこの山頂から見たもの。湯が湧くのを待つ3人組、昼食を終えたばかりの単独行の人が居る。雁ガ腹摺山といっても今では雁を見ることはできない。冬鳥の雁は、北海道宮島沼と宮城県の伊豆沼だけに飛来するという。

白樺平の道標に従って双耳峰の姥子山へ向かう。葉の落ちたミズナラ、下生えはスズタケ。奈良子林道を横切り、上り返すと姥子山西峰。アセビが生い茂る展望のない山頂。東峰の山頂直下にはしたたかにイワウチワの群落がある。姥子山は岩峰の東峰が主峰。山頂からは360度の展望を誇る。振り返れば雁ガ腹摺山、大きな山体から東へ延びる楢ノ木尾根。南大菩薩連嶺に御坂の山、鶴ガ鳥屋山と三ツ峠山の奥に霞んだ富士。近くに扇山、権現山。東には奥多摩の山々。

左足の指が痛い。ぺろりとむけた薬指の腹の皮、黒ずんだ親指の爪。仕方がない、そろりと参ろう。金山峠からは土沢に降りずに、そのまま大岱山南尾根を下る。送電線の鉄塔、セーメーバン分岐を通過。陽差しが強い自然林の尾根道。金山鉱泉降下点まで、予定よりもなんと倍もの時間がかかって着く。金山鉱泉までは標高差150mをいっき下り。踏み込む度に足にずしんと響く。じぐざぐの下りは急勾配なのが恨めしい。降るにつれて沢音が大きくなってくる。もうじき金山鉱泉。


快晴 単独行 歩行距離=151km 歩行時間=8時間

JR中央線、大月駅720⇒(タクシー)⇒735金山鉱泉
金山鉱泉740900金山峠9051040百軒干場10501040白樺平10551145雁ガ腹摺山12101245白樺平→1315姥子山13251340奈良子林道から登り尾根へ14001600金山鉱泉降下点16051625金山鉱泉16301715遅能戸
遅能戸1804⇒(富士急山梨バス)⇒1819大月駅