大岱山 おおぬたやま 

232 2013/4/9(火) 宮地山1,112 → 大岱山 1,177m → セーメーバン 1,006m




春の天気は3日続かずと云う。台風並みの春の嵐が猛威を揮った日もあれば、5月のような陽気の日もあり、3月に戻って寒さに震える日も過ごす。それが4月ってことさ。今日は大岱山に登る。大菩薩連嶺から少し東に外れて雁ガ腹摺山、その峰続きに岱山がある。岱山から稜線を東に辿れば宮地山、南に降ればセーメーバン。芽吹き始めた春の山は気持ちがいい。されど登り口が分からずに右往左往、更に山下りの終りで道迷い。一時は途方に暮れた山行であった。

奈良子入口で路線バスを降りると、乗客の居ない空のバスは浅利へ走り去る。バス停脇に雁が腹摺山、姥子山と大書された看板に従い小俣川に沿って遡る。林入口で左へ下りたのが迷走の第一歩。橋を渡り小さな集落を通り抜ける。おかしいなと何度も坂道を往きつ戻りつ宮地山の登り口を探すが見つからない。植木に水を遣っていた老人に尋ねると、知らないと素っ気ない返事。地図を睨み直してやっと気が付いた。林沢戸入口ではなく、手前の林入口に入ってしまったのだ。

橋へ戻る途中、念のため見掛けたおばさんに訊くと丁寧に教えてくれる。林入口まで戻ることはないと言う。え〜と、集落の坂を上り、十王堂前の坂を下って橋を渡る。材木屋が見えると右手に宝鐘(鏡)寺の薬師堂がある。裏庭には宮地山を示す大月市の道標が立つ。左手のコンクリート製の階段が宮地山への登り口なのだ。鬱蒼とした杉林を抜けると竹林。あれっ踏み跡がない。かまうものかと胸を衝くような急斜面を遮二無二上る。また杉林、いつの間にか踏み跡が現れている。

アカヤシオ 宮地(路)山


薬師堂から宮地山山頂まで水平距離2km、高さ700m。かなりの急勾配。左への巻き道を無視して尾根を目指し、右への巻き道は素直に従う。知らぬ間に用沢からの登山道と合流して二つ目の道標に出る。この辺りから尾根らしい地形となりトレイルは明瞭になる。樹相はアセビや赤松が混じる落葉広葉樹林。芽吹き始めた山にアカヤシオが彩りを添える。砂礫の急斜面をじぐざぐに上れば、樹間から東に権現山や奥多摩の山々、西に大岱山からセーメーバンに続く稜線が覗く。

ごろごろと横たわる大岩の間を縫って上ると、山神大権現と刻まれた大きな卵型の石碑がある。その傍らに小さな青銅製の4頭の馬が置かれている。これは何だろう。やっと宮地山と大岱山を結ぶ稜線に登る。芽吹き未だしのブナ林を緩やかに上って宮地山、山頂標識は宮路山。展望のない樹林の中の山頂には三角点がある。倒木に腰掛けてひと休み。この先は長くまだ13の旅程を踏破したに過ぎない。さあて、元気を奮い起こして西へ、大岱山を目指して緩やかに下る。

ひっそりと咲く山桜。突然前方の茂みが揺れて茶色い雉が飛び出した。厚く積もった落葉や下生えは踏み跡を隠す。僕のS社の山地図には、今日のコースは点線で描かれ、この周辺の山域は経験者、マニア向き、と記されている。前方、枝葉越しに見えるのは大岱山か、あれは姥子山、雁ガ腹摺山かしら。鞍部に送電線鉄塔が見えればひと安心、18号鉄塔。この先はと目を凝らして斜面に取り付けば、大岱山からセーメーバンを結ぶ稜線に上る。植栽地を過ぎれば大岱山に着く。

大岱山山頂から望む富士山、右に三ツ峠山
その手前は鶴ガ鳥屋山、右奥は本社ガ丸、
大岱山からセーメーバンへの尾根道


岱とは難しい漢字を充てたものだ。タイと読みヌタという読み方はない筈だが。岱は中国の山東省の名峰にして世界遺産、泰山のことだという。ヌタとは御存じ、酢味噌を使って味つけした和え物のこと。山の鞍部が沼田(ぬた)のようにどろどろしていることから名付けられたらしい。朝方は晴れ、上り始めは曇り、今は雲ひとつない青空。ベンチ代わりの丸太に腰掛けて、開けた南側に富士山を見る。手前には丹沢の鶴ガ鳥屋山、その後ろには御坂の三ツ峠山、本社ヶ丸を従えて。

大岱山から桜沢峠までは迷うことのない尾根の一本道。送電線が稜線に沿って続き、尾根道は巡視路として整備されている。樹相は赤松、ブナ、桧の群落へと変わる。赤土の上に落葉が厚く積もる。これがなんと滑るんだよね。稜線上のコブと見紛うセーメーバン山頂。古い標識にはセイメイバンと標示。言わずと知れた陰陽師の安倍晴明にまつわる伝説があるという。右に南大菩薩連嶺の稜線、ひときわ高く滝子山、下方に岩殿山や猿橋の市街地を眺めながら稜線漫歩が続く。

赤い石祠を過ぎて鞍部が桜沢峠。直進すれば稚児落とし、右折して金山へ降りる。崩れ易い山腹をへつって煩わしい下草がはびこる自然林を下る。気が付けば踏み跡がない。左下は雑木林の谷間、前は濃い笹藪。戻って仕切り直しは面倒、右下の小沢へ降る。掴むものがない急斜面、滑って転んで30mを降る。禁断の沢は滝もなく、土沢と東沢の合流点、民宿森屋荘前に無事軟着陸。林道を下って遅能戸へ。誰にも会わなかった山、風に吹かれて1時間後のバスを待つ。


晴一時曇り 単独行 歩行距離=109km 歩行時間=5時間50

JR中央線、猿橋駅818⇒(富士急山梨バス)⇒838奈良子入口
奈良子入口845855林入口→925宝鐘(鏡)寺薬師堂9301120山神大権現→1130宮地(路)山11551255セーメーバン(セイメイバン)分岐→1305大岱山13251400セーメーバン→1435桜沢峠→1505民宿森屋荘→1525遅能戸
遅能戸1629⇒(富士急山梨バス)⇒1644JR中央線、大月駅