大山北尾根4おおやまきたおね

202 2011/4/26(火) 大山 1,252




大山の北尾根は今迄3回歩いたものの、山頂から一ノ沢峠まで歩き通したことはない。石尊沢左岸尾根の降下点までなら山頂から僅か15分の歩きだし、地獄沢橋から上っても一ノ沢峠までの半分の距離でしかない。それは、いったん一ノ沢峠に降りきってから、バス停までが遠すぎるのを嫌ったからにほかならない。なにしろ林道を南へヤビツ峠に戻るにしろ、黒岩から北へ宮ヶ瀬に出るにしろ、あるいわ東へ物見峠から煤ヶ谷に行き着くにしろ、2時間以上も歩くことになるからだ。


秦野駅前のバス停に貼り紙がある。<東北地方太平洋沖大地震の発生に伴い、安全確保のため、当分の間丹沢登山はご遠慮ください 秦野市観光課>とはなんのその、平日にも拘わらずバス停に並ぶハイカーは長蛇の列。ぎゅう詰めのバスは悲鳴を上げながら山岳道路を上りきるとヤビツ峠。バスからどっと吐き出されるジジババ組、トレイルランナー、山ガール。ヤビツ峠は丹沢表尾根と大山との起点。それにしてもこのイタツミ尾根も丸木の階段だらけに成り果ててしまった。


山頂の手前に、谷側が開けて表尾根と丹沢三峰が一望できる地点にさしかかる。二ノ塔の奥に聳える筈の富士山は快晴なるも雲の中。この時間に下山してくるハイカー3人と擦れ違う。早朝登山か。静かな大山山頂。おぼろに霞む湘南の海、わが横浜。奥の院横のテーブルベンチで早い昼飯を摂る。今日は長丁場、のんびりはできない。北尾根の出発点は山頂裏手、ふたつの電波塔屋の間を通り抜けから始まる。そこに月の輪熊が画かれた<熊出没注意>の看板がある。

左からニノ塔、三ノ塔、中央の左奥は塔ノ岳、右奥は丹沢山、右端は三峰


ぬかるんだ掘割状にえぐれた悪路は初めだけ。西側が崩落した展望地を通過するあたりからは気持ちいい尾根。芽吹き始めた果樹園のような樹林、ブナの大木、アセビの群生。左手から現れた森林整備用モノレールは右手からのモノレールと合体する。ここはあの石尊沢左岸尾根の降下点。右は眼下に東丹沢の山々。鐘ヶ岳、三峰山、経ヶ岳から仏果山へ延びる稜線。左に聳えるは丹沢山から三峰を経て宮ヶ瀬湖に至る山並。折しも地獄沢橋から上ってきた若者と擦れ違う。


円頂の西沢ノ頭、ついでミズヒノ頭を越える。この二山には桧の木片に山名を彫り付けた山頂標識がある。よく踏まれた尾根道は左に転ずる。前方の風景がいい。赤土の山肌に松が点在する1040m峰、その向こうは丹沢山と三峰。ちらほらと咲く山桜、山を彩るミツバツツジ。急斜面を下ると稜線を跨ぐ16号鉄塔に降り着く。ここは大風の通り道。振り向けばミズヒノ頭と西沢ノ頭の間に大山が覗いている。すぐ先が滝沢ノ頭、913m峰。左斜面を降れば地獄沢橋、直進が一ノ沢峠。


ここからは未知の世界。道標はおろか踏み跡すら見当たらない尾根下り。前回の轍を踏まぬように1/25,000の地図を片手に、方角は自分の影を見ながら一ノ沢峠まで下ろう。山の趣は一変する。山頂から滝沢ノ頭までは自然林と見晴しの尾根筋。滝沢ノ頭からはツゲやモミの常緑樹の森。やせた尾根筋に巨木や倒木が行く手を阻む。途中に一ノ沢峠の方向を示す桧の木片を見つける。尾根筋を正確に降りてきたことが判ってひと安心。下方にテーブルベンチと道標が見えてきた。

一ノ沢峠、奥から降りて黒岩は左へ 長者屋敷キャンプ場を過ぎたあたりの中津川


一ノ沢峠。左折すれば札掛からヤビツ峠へ戻れるが、道標に従い右折して黒岩へ向かう。桧林を下り、山腹を巻いて唐沢林道に降りる。道標には注意事項<黒岩から物見峠への山道は通行禁止、唐沢林道が迂回路です><ヤマビルに注意> 林道を横切ってまた山腹の桟道をへつると沢に降り着く。ここは大月沢と唐沢川との出合。まず大月沢を木橋で渡る。つぎは唐沢川。さあ困った。木橋もアルミ橋も流失している。唐沢林道まで戻って煤ヶ谷へ出られるがヤマビルが怖い。


悪名高いヤマビルは鹿や猪などの繁殖により今や丹沢全域に広がっているというが、東丹沢が最大の棲息地であることには間違いない。ヒルはシャクトリムシのように動いて裾、袖口、靴下から潜り込み肌に吸い付く。その唾液には麻酔成分があるため、それほど痛みはないが、1時間程度は血が止まらない。こじらせた場合には数ヶ月間痒みが残ることもあるらしい。ヒルに咬まれたら無理に引き剥がしてはならない。ライターで炙ったり、食塩や醤油をかけると自ら離れ落ちる。


川幅は5m、水深20cm程、流れは速い。靴の中に水が入るのはもう懲り懲り。裸足で渡りだすと水は氷のように冷たい。渡り終わった対岸が黒岩。鍋嵐山から派生する稜線の突端を左へ回り込むと再び唐沢川を渡るはめになる。今度は飛び石伝いに靴を履いたまま渡渉する。ここからは唐沢川沿いのしっかりした山道。唐沢キャンプ場から唐沢公園橋を渡ると県道70号線に出る。長者屋敷を過ぎたころ、マイカーが停まって「乗りませんか」とのお誘い。感謝しながらゴールイン。


快晴 日帰り 単独行 歩行距離=105km 歩行時間=4時間40

小田急線、秦野駅815⇒(神奈川中央交通)⇒903ヤビツ峠
ヤビツ峠9051010大山10251105西沢ノ頭→1145滝沢ノ頭→1245一ノ沢峠12551320黒岩13401345再び唐沢川を渡る13551420唐沢川出合→1440長者屋敷キャンプ場
長者屋敷キャンプ場1440⇒(マイカーに便乗)⇒1450宮の平バス停
宮の平1452⇒(神奈川中央交通)⇒1600小田急線、本厚木駅