安達太良山あだたらやま) 

192 2010/9/26(日) 安達太良山 1,700m → 鉄山 1,709m → 箕輪山 1,728→ 鬼面山 1,481 日本100名山




ドスの効いたダミ声で一席お伺いし終わったミンミン蝉、幹からポトリと転げ落ちて仰向けに横たわる。夏が終わる、そして秋の訪れ。それにしても長くてやりきれない夏だった。それが彼岸を境に晩秋のような涼しさ。じっと我慢の引き籠りから不承不承身を起し、久々の山登り。紅葉にはまだ早いのは承知、安達太良山に登る。体力に全く自信がないが、かねてから計画していた安達太良連峰を南から北へ縦走する。手っ取り早くタクシーとゴンドラリフトで薬師岳まで登っちゃえ。


風が吹くとすぐ運行停止するゴンドラリフトは長蛇の列。ゆらり揺られて山頂駅、標高1,305m。濡れた木道を歩いてすぐに薬師岳展望台に着く。見上げると緑の稜線から安達太良山の山頂が覗く。通称乳首山。その形状は推して知るべし。ゴヨウマツやシャクナゲが密生する展望のない木道はハイカー渋滞。小広い仙女平からは露岩と岩ごろの山道。表登山道分岐を過ぎると森林限界を越えて視界が開ける。久々の快晴、ぽっかり浮かぶ雲。この上の空がほんとうの空かしら。

鉄山から見た馬ノ背、矢筈森、安達太良山(奥) 安達太良山から見た牛ノ背、矢筈森、鉄山


お椀を伏せたような岩稜の砦が乳首。ザックを露岩に置いて鎖場の列に並ぶ。狭い山頂には石祠が据えられ八紘一宇と彫られた石碑が立つ。安達太良山の人気はその好展望にある。まずこれから北へ向かう縦走路を見る。荒涼とした尾根の道は岩塊の矢筈森の頂を巻いて台地状の鉄山まで続く。連峰の最高峰、箕輪山。その奥に吾妻連峰、遠く遥かな飯豊連峰の連なり。西に雲に覆われた磐梯山。東を見下ろせば福島市街、その先にあれは阿武隈山地。南には和尚山。


縦走路は北へ赤砂の牛ノ背を緩やかに下る。稜線は風の通り道。吹く風はかなり強くて冷たいが心地いい。左手には船明神山、数人のハイカーが屯している。矢筈森からは沼ノ平が見えてくる。月世界かと見紛う白い火口原は異様な光景。稜線は馬ノ背と名を変える。おや、こんな岩場に鳥がいる、もしやヤマドリ。眼前には鉄山が迫る。黄色い砂地から岩を踏み越え、左を巻いて登頂。三角点にケルン。叢にリンドウが咲く。眼下には山の温泉宿、くろがね小屋。さあ昼食タイム。


鉄山の北の一角に避難小屋がある。殆どのハイカーが来るのはここまで。北には大きな山体をした緑の箕輪山。西の枝尾根を降れば沼尻温泉。折しもその尾根を駆け上がってくる若者がいる。ペットボトルを納めた小さなリュックを背負ったマラソンランナー。胸のゼッケンには「あだたらトレイルラン50キロレース」 北へ、箕輪山へ進めと誘導する指導員がいる。聞けば206名のエントリー、途中に出会った女性ランナーは3名、青眼も3名を数える。日本一過酷なコースだという。

沼ノ平 火口原は毒ガス発生のため立入禁止 箕輪山の山頂 遠景は吾妻連峰


鉄山の北斜面からまた植生が始まる。林床はクマザサ。鞍部で笹平分岐を通過。ハイマツやモウセンゴケの群落を過ぎる。草原に咲く花は青紫のエゾオオヤマリンドウや白くて可憐なママハハコ。汗にまみれて岩ごろを上り登頂、箕輪山。山頂には露岩が散在し道標が立つ。眼下に鬼面山、一段と近づいた吾妻連峰。ここにも山岳マラソン指導員、西の枝尾根を下って横向温泉へとランナーを誘導している。さて、楽しい山歩きはここまで。これから泣きの北斜面を降ることになる。


標高差300mをいっきに降る急坂。濡れた赤土、水を含んで滑る岩。その上、靴巾だけ細くえぐれている。クマザサを掴んでいても滑る。滑って転んでまた滑る。衣服もザックも泥まみれ。ひょとして滑るのは僕だけ? 不甲斐ないがただひたすら耐えて下る。上り返して鬼面山。山頂から今夜の宿、野地温泉を見下ろす。旧土湯峠は草原の中。振り返れば鬼面山の後ろは大きな箕輪山。ブナやダケカンバの林を抜けて、それでも無事に宿へ着く。楽しんだ分だけ泣いた秋の山旅。


快晴 日帰り、下山後、野地温泉泊 単独行 歩行距離=95km 歩行時間=5時間5

JR東北本線、二本松駅805⇒(タクシー)⇒825奥岳、山麓駅840⇒(あだたらエクスプレス)⇒850薬師岳、山頂駅
薬師岳、山頂駅855→1000安達太良山10101050鉄山11051200箕輪山12101340鬼面山1400→1440旧土湯峠14451500野地温泉 (泊)