八海山 はっかいさん)   

182 2009/9/27(日) 八海山、大日岳 1,720m 日本200名山




色づいた稲穂、風に揺れるコスモス、それに直江兼続の生誕地八海山との旗指物が林立する。それが今どきの魚沼。なにしろNHKの大河ドラマがロハで八海山を全国に宣伝してくれる。ご当地としてはこれ程有難いことはあるまい。それで八海山を登ったわけではない。折しも八峰を登り終えてロープウェイの山頂駅に着くと、展望デッキに黒山の人だかり。天地人のロケ中。年老いた兼続にお船が居る。隣のおばさんが呟く。「なんで大騒ぎするの。テレビで見られるのに」


ステゴサウルスの背のような八つの岩峰が北の山並みに見える。あれが八海山の八峰。おどろおどろしい岩峰。古くから八海山大神を祀る霊山として、白装束に身を纏い、六根清浄を唱え、法螺貝を吹き鳴らして山を登る。修験の山。だから幾つもの登拝路があり、それぞれに里宮がある。よく晴れた日曜日、山頂付近の紅葉は今が旬と聞けば、ロープウェイの山麓駅には溢れんばかりの登山客。千本桧小屋まで2時間で到着できるのはロープウェイコースのほかにない。


ダケカンバの枝葉を揺らして高低差771mを昇ると山頂駅、標高1,147m。人ごみを掻き分けて擬木の階段を上ると稜線広場に出る。避難小屋と八海山大神の石像が立つ遥拝所。まずは尾根の一本道を千本桧小屋まで南東へ向かう。樹林の道は赤土の滑りやすい道。木道は始めのうちだけ。悪路に差し掛かるとすぐ登山客の列は渋滞する。ブナ林が途切れると展望が得られる。前方に朝日を背にした薬師岳、左に越後駒ヶ岳の山並み、高みに三角屋根が見えてきた。

地蔵岳を背に千本桧小屋 白河岳を上る 後ろは摩利支岳、入道岳


濡れた急斜面の鎖場を這い上がる。女人堂には真新しいログハウスの避難小屋や八海山大神の石碑がある。その昔は女人禁制の山。女性はここで遥拝して下山したという。広場に佇む大勢の登山客に辟易して薬師岳に向かう。色づき始めた樹林。左手に広がる草もみじの草付き斜面は祓川。浅草登りという急斜面の悪路を上る。最後は梯子と2連の鎖に縋って薬師岳。山頂で初めて越後三山が揃って姿を現した。八海山は言うに及ばず、その奥に中ノ岳、左へ越後駒ヶ岳。


地蔵岳を背にした赤い建物群が千本桧小屋。鞍部からひと上りで小屋に着く。祈祷所のある建物の間をすり抜けると眼下に魚沼平野が広がる。降れば屏風道だが<危険なため下山はしないでください>の立札がある。小屋前に休む大勢の登山客。草の褥に疲れた体を横たえる。軽い食事を摂る。重いザックを担いで八峰を越える気はない。サブザックを取り出してパンとバナナとペットボトル、それにウインドブレーカーを詰め込む。野球帽を被ってグローブをはめて準備万端。


いざ、心躍る八峰へ。まず1峰の地蔵岳を右から巻き、迂回路と別れてルンゼを上る。そこは地蔵岳と2峰の不動岳との鞍部。NHKの大河ドラマ、天地人のタイトルバックに、兼続が越後の山野を眺めていたのはこの地蔵岳。見上げる山頂には大勢の人。嫌気がさして地蔵岳をパス。右へ不動岳を登る。石塔に囲まれた2体のご神像。立札がある。<これから先は鎖場の連続です。初心者や雷雨強風時には迂回路をご利用ください。転落すれば助かりません> 勝手に登れか。

大日岳、山頂標識の傍らに青銅の不動明王像 八峰の基部を通る迂回路で大日岳から戻る


不動岳を鉄鎖で降る。心が躍りすぎて心臓がバクバクする。4峰の白河岳に立つ頃には鎖に大分慣れてきた。5峰の釈迦岳から鞍部に降ると迂回路への降下点がある。これからは心せよ。絶壁が佇立する6峰、摩利支岳、ついで8峰、大日岳を梯子と鎖で上る。最後の大日岳、直立する梯子を下りてくる女性がいる。続いてまたひとり。聞けば、八峰越えを往復したのだという。すごい。もうひとつ上れば山頂よ、の声に励まされて大日岳。岩峰の山頂に吹く風が心地いい。


そう云えば<お父さん、無事に帰ってね>と大書された看板が街道にあった。八峰には19個所の鎖場がある。緩い斜度には鉄の鎖、垂直に近ければアルミ製の梯子で上り下りする。大日岳の降りは垂直に15mを下る。これを恐怖の鎖一本で降るという。下ってみれば振られもせず、どうってことはない。高度感があり緊張を強いられる個所はほかにもある。切れ落ちた絶壁上をトラバースする6峰の剣ケ峰や後半の迂回路。迂回路の初めには5連の梯子で降る。いやはや。


紅葉は岩によく似合う。八海山の紅葉ベストを挙げるなら、まず摩利支岳と大日岳の岩塔だろう。絶壁に張り付いた紅葉はまさに絶景。入道岳への稜線の紅葉もいい。紅葉に囲まれて飯を食っている奴らもいる。入道岳は大日岳から往復80分もかかるのでパス。八峰の基部をへつる迂回路がまたいい。草もみじを分け、紅葉の八峰を見上げながら千本桧小屋へ帰る途。法螺貝の音が余韻を残して谷間に消える。岩を曲がると急に聞こえる人のざわめき。もう千本桧小屋。


快晴 日帰り 単独行 歩行距離=8km 歩行時間=5時間5

JR上越新幹線、浦佐駅前740⇒(タクシー)⇒805八海山スキー場
山麓820⇒(八海山ロープウェイ)⇒830山頂
山頂駅830→925女人堂→1010薬師岳→1015千本桧小屋1030→(八峰)→1130大日岳1140→(迂回路)→1230千本桧小屋12401250薬師岳→1320女人堂13301420山頂駅
山頂1440⇒(八海山ロープウェイ)⇒1450山麓
八海山スキー場1525⇒(南越後観光バス)⇒1555JR上越線、六日町駅前