九鬼山2 (くきやま)

162 2003/3/6(木) 九鬼山 970m (山梨100名山)→馬立山→御前岩→神楽山




桃太郎の昔話は岡山にあらず、大月市で生まれたという。今でも残る地名に犬目、鳥沢(雉)、猿橋がある。山名に百(桃)蔵山があって、鬼ヶ島ならぬ九鬼山がある。さて、鈴ヶ音峠から西へ向かって九鬼山に辿り着いたのが5年前のこと。今日は九鬼山から北行する。標高1,000mに満たない山でも、四つも五つも上り下りすれば、それはタフな歩きとなる。登り終われば冷や汗たらたら。間違った尾根に踏み込み、残雪の凍結に泣き、崩れる急斜面を這い上がった縦走だった。


禾生(かせい)駅から猿橋駅までの、駅から駅まで登山なのは有難い。右に九鬼山を見ながら国道を歩いて落合橋。九鬼山への最初の道標がある。川沿いに進んで煉瓦造りの落合水路橋をくぐる。東電の駒橋発電所への送水路だそうな。ここで九鬼山への登路が分かれる。左はそっくり返るほどの急坂を上るという愛宕神社コース、右は時間が余計にかかるが楽な上りの杉山新道。杉山新道は深い掘割の底を通り過ぎて沢を渡る。また分岐がある。左へ1号路、右は2号路。


落合水路橋 富士見平


杉山新道1号路は鬱蒼とした杉林、笹に囲まれて緩やかに上る。落葉を踏んで霜柱を壊して。登るほどに御坂の山並みが見えてくる。すぐそこに高川山や雪化粧の三ツ峠山が覗く。汗もかかずに尾根筋に上る。弥生峠。葉が落ちて陽が射す主稜線は緩やかな斜度。樹木が取り払われたリニア見晴台。リニアカーの実験線は、なんと九鬼山と高川山の山頂直下を走り抜ける。枝木の間から白銀の富士山が見える富士見平。尾根道の残雪を踏みしめて、ほどなく九鬼山に着く。


二等三角点、山梨100名山の標柱、ベンチ代わりの9本の丸太、これぞ九木(クキ)? 山頂にはパノラマが広がる。南面だけが樹木に遮られている。だから秀麗富岳12景の山なのに、富士山を見ることができない。藪が急に騒がしくなると突然3匹の猟犬が現れた。1匹が尻尾を振りながら僕にまとわりつく。主稜線を北へ降りかかると、数匹の猟犬を従えた二人のハンターが上ってきた。今日の山行で出会った唯一の人達。獲物は猪だが今冬は1頭も獲れていないと言う。


九鬼山山頂から滝子山、雁ガ腹摺山などの小金沢連嶺、右手前が馬立山から続く縦走路


九鬼山の北登路は悪路の急斜面。降るにつれて残雪が凍りついている。10分間、立木に支えられながら下ると、斜度が緩み雪は消え自然林の尾根道となる。田野倉への降下点にさしかかる。しっかりした踏跡を辿って尾根道を進む。二つ目の小峰まで来ると踏跡が消えている。桧の若木に沿って急斜面を数10m下る。これは札金峠への尾根道ではない。やっと思い直して降りて来た斜面を上り返す。一つ目の小峰まで戻り、うんざりして松の切り株に腰を下ろす。ここで昼飯にしよう。


帰宅してからカシミール3Dで確かめると、馬立山から神楽山へ続く山々は九鬼山の山頂からすぐ足元に見えるし、J社のガイドブックには札金峠はまず田野倉方面へ降りて、決して尾根道を進んではならないと記載されている。田野倉への降下点へ戻り、尾根から離れて山腹道を下る。ザレた隘路の凍結箇所をこわごわ通過して、紺屋休場という見晴広場を通り過ぎると田野倉駅への分岐。ここは真っ直ぐに尾根を上って札金峠。素直に降下点を下ればよかった。1時間のロス。


神楽山から北面の展望、左は百蔵山、右は扇山、後方は左奥の三頭山から続く笹尾根


札金峠は九鬼山と馬立山を結ぶ最低鞍部。手書きの道標は右へ朝日小沢、左は札金鉱泉を指す。九鬼山山頂までファイトで1時間10分と書かれた板片がある。桧林を抜けると山道が消えている。眼前には壁のような斜面。土を崩しながら上り下りした痕跡がある。ままよと壁に取り付き、藪を漕いで這い上がると尾根に上りつく。おや、左手から上ってくる山道があるではないか。振り返れば雪が張り付いた九鬼山の北面が見える。富士山はすっかり雲に隠れ、見えるのは裾野だけ。


神楽山までは気持ちのいい尾根道が続く。大小の峰、自然林、倒木だらけの稜線。あり余るほどの道標は大月市と地元の山岳会製。だからもう迷わない。御前山の岩峰には上らずに崩れかけた巻き道を進む。縦走路の最後は神楽山。北方面が一望できる。奥多摩の山壁の手前に、百蔵山、権現山、扇山。あとは標高差350mの急下降。なかなか手強い。落葉に隠れた氷に気付かずに滑ってしまう。笹原を通り擬木の階段を降りる。奇橋で名高い猿橋の街。やっと山旅が終わる。


晴のち曇り 日帰り 単独行 歩行距離=95km 歩行時間=5時間35

富士急、禾生駅830930弥生峠→1005九鬼山10151030誤った尾根に入る1130食事休憩11501235札金峠→1315馬立山13251355御前岩(山)→1410神楽山14201455JR中央本線、猿橋駅