御座山おぐらさん)   

#127 2006/5/22(月) 御座山 2,112m 日本200名山・信州100名山




御座山と書いて「おぐらさん」とはややこしい。北相木村のホームページに山名の由来が載っている。神様のお出でになる山、或いは天子様がお座りになる所をさす高御座(たかみくら)だと云う。甲武信を源流とする千曲川が北上すると、西側が八ヶ岳、東側に佐久の山々がある。佐久の山と隣接する西上州の山とを併せても、御座山は最高峰の山。シャクナゲ満艦飾の樹林から突き出た岩峰はぐるりと360度の展望台。浅間山も八ヶ岳も指呼の間、とはガイドブックによる見所。


台風1号が足早に通り過ぎ、前線を追い払って久々の晴天。それが昨日。今朝は小雨降る横浜、想定外。曇天にして霧に包まれた軽井沢。不安を乗せた列車がトンネルを抜けると世界が変わる。朝日のまぶしい佐久の町。通学の高校生で満員の小海線は4両編成。小海駅に着く頃は1両だけのワンマン電車に変わり、乗客は僕らだけ。御座山へは、北尾根の白岩から登りたいが、登山口まで1時間30分の林道歩きは辛い。そこでタクシーに乗る。おしゃべりタクシーに。


相木川沿いに走るタクシーから、ごつごつした山並みが見える。左端の山が御座山のようだ。右折して林道へ入る。運転手さんはお年寄り。北相木村の観光案内をとめどもなく話し続ける。この林道は何故舗装されているか分かりますか、と聞かれる。この先に高原野菜の畑地があるからだという。樹林が途切れるといちめんの畑。ここが林道の終点、登山口。標高1500m。予定より45分早い。水道施設際に狭い駐車スペース。先客は2台のマイカー。登山届けボックスもある。


前衛峰から御座山 岩稜の御座山山頂


ウグイスのひと鳴きにカッコーが唱和するのが出発の合図。新緑のカラマツ林を上る。山道に敷き詰められた松の落葉。足にやさしいレッドカーペット。10分もすると主尾根に出る。若葉が萌えるミズナラ林、シロカンバの美林。満を持して咲く時を待つのか、まだ蕾のミツバツツジ。30分後、長者の森からの道を併せる。樹木が生い茂る視界のない尾根道を歩く。上部が平らな岩に上ってひと休み。その先は樹相が変わる。モミやコメツガ、シャクナゲを掻き分けて上る急な坂。


見晴台、標高1800m。露岩に立てば北側への展望台の筈。ところが樹木に遮られて、同じ佐久の茂来山すら見えない。また黙々とシャクナゲの道を上る。おや、シラビソの森。傾斜がゆるんで前衛峰、標高1992m。足元に小さな山頂標識。一旦、ダケカンバの鞍部まで降りる。うだの沢トーミと呼ばれる峠。下新井・木次原を示す道標があるが、共に廃道のようだ。上り返して御座山への最後の急坂。もう姿が見えなくなったO君を追って、木の根に縋って身体を引き上げる。


木立の中に頑丈な造りの避難小屋が建つ。小屋の左手から薄暗い樹林を抜けると、そこが岩峰の御座山山頂、標高2112m。高さ10mほどの岩頭からO君が手を振っている。山頂は南北に細い。北端に山頂標識と石祠がある。西側は切れ落ちた絶壁。圧倒的な高度感の山頂を伝い歩くと、西側に吸い寄せられそうな感覚。先客が居る。大宮在の男性二人。北側の岩稜に地元、佐久の女性ふたり。さて、南端の露岩に腰を下ろして昼食を摂る。心地よい微風に身を委ねながら。


山口への下山道、カラマツ林 北相木村から御座山(左端)


快晴とはいえ高湿の日、遠方が霞んでいる。山容に特徴のある北の浅間山、東の妙義山や両神山、南の金峰山も定かではない。残雪の八ヶ岳すらぼんやりと。これでは遠景をコンパクトデジカメで撮るのは無理。時間を計算すると2時間も早い。下山は北相木村の山口へ。小屋前の道標に従って、まず南相木村方面へ下りる。シラビソの急坂から若者が元気よく上って来る。その後を追って上ってきたお嬢さん、まとわりつく虫を追い払いながら今にも泣き出しそうな様子。


五月蝿とはよくぞ造った言葉。木々が芽吹き、花が咲き始める山の5月。虫が飛び交い、鳥が春を歌う。盛夏、田んぼで生まれたアカトンボが山へ上り、山上の虫は姿を消す。ハエを小さくしたような虫がブユ、蚋と書く。ぼくにはブヨと云った方が分かりやすい。餌食にする人を狙い定めて襲いかかる。刺すというより齧りつく。初めは肌が赤くなる。翌日から膨れ上がり痒くなる。僕もやられて右手に2箇所、耳たぶにも。これが跡形もなく治るには3週間もかかる。


下りは標高差1100mを一気に降る、うんざりの山口登山道。南相木村への下山路と岐れて、谷あいの原生林を降る。針葉樹と広葉樹の混生林。下山を惑わす倒木と薄いトレース。倒木を乗り越えて、じっと目をこらして踏み跡を探す。そう言えば、上りに密生していたシャクナゲは、この下山路には見当たらない。西沢渓谷のアズマシャクナゲはそろそろ終期だと聞くが、御座山のシャクナゲはなぜ開花しないのかしら。いいの、それでも満足。新緑に癒されて降る春の山。


快晴 日帰り 同行者=O君 歩行距離=10.8km 歩行時間=4時間25

小海駅845⇒(タクシー)⇒910白岩登山口
白岩登山口9101020見晴台10301055前衛峰11051140御座山12301450山口登山口14051455山口
山口1505⇒(タクシー)⇒1525小海駅