十二ヶ岳じゅうにがたけ

#126 2006/4/24(月) 十二ヶ岳 1,683m ← 節刀ヶ岳 1,736 共に山梨100名山




肝試しの季節にはまだ早いが、十二ヶ岳には心胆寒からしめる稜線がある。寝起きに激しい雨音、濃霧の中を走るJR。それが、富士急線に乗る頃には、朝日と真っ白な富士山が車窓に飛び込んでくる。よかった。僕とO君だけを乗せたバスが、河口湖畔の桜並木から山裾の集落へ入ると、そこが大石プチペンション村。赤松林に散在する、瀟洒なハウス。それぞれに英語と日本語のネーミングがされている。山里の春は遅い。富士五湖周辺は今が春爛漫、桜の真っ盛り。


目下、林道の工事中。埃を舞い上げながら走り抜けるダンプを避けて歩く。鉄パイプで規制された歩行者通路から林道に入る。高鳴る水音、白濁した奥川。花咲く桜、新緑の森。春を歌う鶯。見上げると左上に鋸歯状の峰が見える。あれが十二ヶ岳に毛無山。同名の山は、岐阜と群馬にもある。いずれもその県の百名山。ちなみに、毛無山という山は富士山の西岸にもあり、天子山塊の最高峰。御坂峠登山ハイキング図という大きな案内板が立つ。大石峠への登り口。


山道は、桧林から赤松林へ、潅木林へ。ジグザグを折り返す度に道標。樹間から垣間見る河口湖と河口湖町。もう汗まみれ。癒しは、足元のスミレ、楚々と咲くマメ桜。左後方、毛無山辺りから真っ白な富士山の頭が覗いている。登るほどに林床は熊笹、樹相はカラマツに変わる。突然、樹木の天蓋が途切れて大石峠。樹木が取り払われた南側には、青空を映した河口湖、大きな裾野の富士山。陽が降り注ぐ峠は、眠気を誘う枯れ草の褥。さあ、どこにでもお座りください。



節刀ヶ岳から、奥に黒岳、右は三ツ峠山 十二ヶ岳山頂


昼飯を摂っていると、節刀ヶ岳方面から全身黒ずくめの女性がやって来た。十二ヶ岳の鎖場を嫌って根場から登ってきたという。ついで40歳位の男。峠の反対側、芦川へ降りてゆく。今日山で出会ったのはこの両人だけ。のんびりもしていられない。節刀ヶ岳への尾根道はツゲ林、カラマツ林、桧林、芽吹き前のブナの森。高度を上げながら三つの峰を越えて、節刀ヶ岳。黒岳に次ぐ御坂の高峰。山梨百名山の山頂標識、三角点。どの頂稜も競うように大パノラマが展がる。


金山へ向かう尾根道から振り返ると、黒岳から御坂山へ、うねるような稜線が続く。その右にアンテナ塔の建つ三ツ峠山、左に三角錐の釈迦ヶ岳。ほどなく金山。さて、左手の分岐を辿って、気になる十二ヶ岳へ向かう。止せばいいのに。このまま鬼ヶ岳方面へ、縦走路を西に進んで下山しなさいよ、と囁く声がする。樹木が少なくなって、稜線はヤセ尾根となる。前方に尾根道を塞ぐ大岩がある。その手前に黄色い表示板。危険、足元に注意か。ここが危険地帯への始まりだった。


先行するO君が下方から叫ぶ。途中から梯子があるよ。次いで僕の番。ストックを仕舞って下を覗き込む。多少の勾配があるにせよ、まるで垂直の岩壁。素手で鎖を掴んで足探りで岩角を見付ける。後ろ向きに下りれば恐怖感はない。うまく鉄梯子に乗り移り、無事にキレットまで降り着く。次は上り。上から数本のロープが垂れ下がっている。O君が登り終わるのを見届けて、左端のロープに取り付く。岩登りに特別の技術はいらない。ただ、ロープを手放さなければよい。


吊り橋を渡って十一ヶ岳の鎖場に取り付く 毛無山から河口湖を俯瞰


白い板に十二ヶ岳と記された山頂標識。山梨百名山の山頂標識もある。火山岩を穿った石祠と、金属製の赤い祠。この山頂からの展望もすこぶるつき。手前から西湖と足和田山、その奥に山頂が雲に覆われた富士山。僅か先に桑留美への降下点がある。ここでエスケープしちゃおうかな。さあ、これから最大の難所が待ち受けている。ルートを目で追う。まず数十メートル直下降する。次は崩壊したキレットに渡された吊り橋。また岩峰を垂直に這い上がる。これは手強い。


太いロープに縋りつき足場を探して降りる。クラックがないときは手を緩めてずるずると滑り降りる。これは楽。あっけなく下降。次はアルミの吊り橋。ひとりずつ渡れ、との注意書きがある。踏み板に、足を下ろす度に、右に左に危険なほど揺れる。両手両足を使ってバランスをとって対岸に渡る。上りも辛い。鎖とロープにしがみ付き、力任せに上り着いた十一ヶ岳。ぐったり疲れてしばしの放心状態。緊張のあまりだろうか。よくない兆候。だが、おじさん、最大の難関は突破したのよ。


十二ヶ岳を走破するには十二の峰を越える。ミツバツツジもカタクリもまだ咲かず、芽生えさえも未だしの縦走。それでも展望とスリルに大満足。九ヶ岳だけは巻き道がある。四ヶ岳は見晴らしの小峰。一ヶ岳山頂の東端がなんと毛無山。登山届用の赤いポストが掛かった山頂標識がある。山頂から河口湖方面を俯瞰する。山麓の長浜までは、あと距離2.4km、標高差600m。1時間で下山できる。途端に元気を取り戻し、アセビ林からブナ林を抜けて、ミズナラ林を駆け下りる。


快晴 日帰り 同行者=O君 歩行距離=10.4km 歩行時間=6時間5

河口湖駅916⇒(富士急バス)⇒942大石プチペンション村
大石95010:15大石峠登り口→11:35大石峠12:0513:05節刀ヶ岳13:2013:30金山13:3514:20十二ヶ岳14:3016:00毛無山→16:55長浜
長浜1722⇒(富士急レトロバス)⇒1744河口湖駅