笠取山かさとりやま

#115 2005/9/29(木) 笠取山 1,953 山梨100名山




ひんやりとした冷気が肌を刺す。山はもう秋。あの長い夏の日々が、もう懐かしい。O君の運転する車は、山間をくねくねと縫って作場平橋に着く。そこには大小の駐車場が設けられている。笠取山登山口。雲間から陽が射すと、水源地ふれあいのみちと書かれた案内板が、葉陰を映してまだら模様に浮かびあがる。笠取山は奥秩父主脈のひとつ。多摩川源流の山。山梨県なのに、安定した水道用水を確保するために、東京都は広大な山域を所有する。森は緑のダム。


本谷の激しい水音を聞きながら、ヒノキ林を抜けてカラマツ林に入る。濡れた山道、広い道。ダケカンバの明るい樹林帯、ミズナラ林、背の高い笹。ドングリの実を踏み潰しながら、だらだら坂を登る。次いで一休坂。急坂はあまり長くは続かない。見上げると、緑なすミズナラの葉陰から、雲に覆われた山頂が見える。いくつもの沢を木橋で渡り、小さな沢に沿って上る。気持ちのいい山道。草に腰を下ろしてしばしの休憩。伸びる梢の先には青い空。矢のように飛び去る薄い雲。


小さな分水嶺 笠取山山頂


樋から迸る水場を過ぎて、もうひと頑張りすると、草の台地に笠取小屋。ヤブ沢峠からの道を併せて、丸木が敷きつめられた道を上る。失火で草地となった雁峠への分岐。雁峠から雁坂峠を経て甲武信への尾根道は霧の中。笹原の、のびやかな丘は小さな分水嶺。三角柱の小さな石塔が建つ。多摩川、荒川、富士川と刻まれている。ほんの少し離れた位置に落ちたばかりに、雨水の行方は、東に西に、そして南へ向かい、それぞれの表情をした河川として流れてゆく。


すぐ目前の笠取山は霧に消えている。鞍部まで降りて仰ぎ見ると、オオシラビソを切り開いた巾数十メートルの防火帯が山頂まで続く。笹原の急斜面の外れには、風情あるシロカンバ、赤い実がたわわなナナカマド。数人のK林業の作業服を着た人たちが昼の弁当を食べている。100メートル余りの直登を一気になんか上れない。辛い上り。何度も足を止めて呼吸を整える。北側、埼玉県側から冷たい風が白い霧を運んで尾根を越え、山梨側へ静かに降りてゆく。


岩の重なりの上に、山梨百名山の標柱が立つ。ここは笠取山の西端の山頂。昼食中の老夫婦が居る。シャクナゲやツガに遮られて、幸いに微風。湯を沸かしながら眺めると、わずかに南側の大菩薩方面が霞んで見えるのみ。東の唐松尾山や雲取山、北の両神山などは見るべくもない。時折霧が薄れて、西側の水晶山や甲武信岳を垣間見る。下山は東へ、樹林の中。シャクナゲを掻き分けて岩塊を越えると、もうひとつの頂上標柱がある。ここが本来の山頂らしい。


山頂の稜線 もうひとつの笠取山山頂


岩場を100mほど降りると、奥秩父の縦走路との十字路に出る。西への巻き道を辿ると、水干(みずひ)という沢の行き止まりがある。ここが多摩川の始まり。最初の一滴が水干沢から、一ノ瀬川、丹波川となり、奥多摩湖に流れ込む。そこから多摩川となり、河口まで138kmの長い旅をする。水干の標柱、案内板、湿った岩がある。崩れかかった勾配を10mほど上ってみると水神社。十字路に戻って、展望のない黒槐(くろえんじゅ)尾根を下りる。飽きるほど降りる。


樹相はシャクナゲやオオシラビソからブナ林に変わる。ブナやミズナラなどの広葉樹は、生育条件が良い場所では針葉樹との生存競争に勝ち、一方、広葉樹が生育できない岩場などの厳しい環境や、標高1800mを越える寒冷なところでは、針葉樹が森林となるそうだ。かすかに水音が聞こえる。緑に輝く苔がある。苔は上流に広がる森林の豊かさの象徴なのだそうだ。長いだらだら坂をだらだらと下る。山は曇、麓は晴れ。風に揺れるススキに迎えられてゴールイン。


曇 日帰り 同行者=O君 歩行距離=10.1km 歩行時間=4時間25

横浜550⇒(青梅街道)⇒落合⇒(一之瀬林道)⇒905作場平橋
作場平橋915→940一休坂→1040笠取小屋1050→1130笠取山1220→1245水干1300→1435中島川橋→1455作場平橋
作場平橋15:15⇒(一之瀬林道、青梅街道)⇒16:15JR塩山駅