夕顔巻(全十九首)



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(26)心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕がほの花(夕顔3)

(27)よりてこそそれかとも見めたそがれにほのぼの見つる花の夕顔(光源氏5)

(28)咲く花にうつるてふ名はつゝめども折らですぎうきけさの朝顔(光源氏6)

(29)朝露の晴れまも待たぬけしきにて花に心をとめぬとぞ見る(中将のおもとA)

(30)うばそくが行ふ道をしるべにて来む世も深き契りたがふな(光源氏7)

(31)さきの世の契り知らるゝ身のうさに行く末かねて頼みがたさよ(夕顔4)

(32)いにしへもかくやは人のまどひけむわがまだ知らぬしのゝめの道(光源氏8)

(33)山のはの心も知らで行く月はうはの空にて影や絶えなむ(夕顔5)

(34)ゆふ露にひもとく花は玉ぼこのたよりに見えしえにこそありけれ(光源氏9)

(35)光ありと見し夕がほのうは露はたそがれ時のそらめなりけり(夕顔6)

(36)見し人のけぶりを雲とながむれば夕べの空もむつまじきかな(光源氏10)

(37)とはぬをもなどかととはで程ふるにいかばかりかは思ひ乱るゝ(空蝉4)

(38)空蝉の世はうきものと知りにしをまた言の葉にかゝる命よ(光源氏11)

(39)ほのかにも軒ばの荻をむすばずは露のかごとを何にかけまし(光源氏12)

(40)ほのめかす風につけてもしたをぎのなかばは霜にむすぼほれつゝ(軒端荻)

(41)泣く泣くもけふは我がゆふ下紐をいづれの世にかとけて見るべき(光源氏13)

(42)逢ふまでの形見ばかりと見しほどにひたすら袖のくちにけるかな(光源氏14)

(43)蝉のはもたちかへてける夏衣かへすを見てもねは泣かれけり(空蝉5)

(44)過ぎにしもけふ別るゝもふた道に行くかた知らぬ秋の暮かな(光源氏15)