中世文学の名歌名場面


『水無瀬三吟』 「初表八句」 (進藤重之)
※引用は『新潮日本古典集成』 (新潮社)
 また、括弧内の片仮名はこちらでつけました。



<本文>

1 雪ながら山もとかすむ夕かな (宗祇)

2 行く水とほく梅にほふ里 (肖柏)

3 川かぜに一むら柳春みえて (宋長)

4 舟さすおとはしるき明がた (宗祇)

5 月は猶霧わたる夜にのこるらん (肖柏)

6 霜おく野はら秋はくれけり (宋長)

7 なく虫の心ともなく草かれて (宗祇)

8 垣ねをとへばあらはなる道 (肖柏)




<現代語訳>

1 はるかに見渡すと水無瀬山の麓のあたりは残雪のあるままに、春霞にかすんで見え、いかにも
  後鳥羽院の名歌が彷彿とする美しい夕景色。

2 雪消(ゆきげ)の水が遠くから流れてきて、あたりには梅の咲き匂っている里。

3 川辺にあるひとむらの柳が風になびいてその緑が際立ち、一段と春めいて見え。

4 川舟の棹さす水の音だけははっきりと聞こえてくる明け方。

5 たちこめている夜霧に隠れているが、月はまだ残っているであろう。

6 白々と霜の置いている野原、秋はもう暮れてしまった。

7 草はどんどん枯れてゆく。その陰で、心細く鳴いている虫の心などはかまわずに。

8 垣根沿いの道を訪ねてゆくと、草も枯れ、土の地肌もあらわに見えている。