近世文学の名歌名場面


『醒睡笑』 巻之二 「亀の寿命はためされぬ」(進藤重之)
※引用は『醒睡笑』 (岩波文庫)
 また、括弧内の片仮名はこちらでつけました。



<本文>

 「亀はいかほど生くる物ぞ」。「万年生くるといふ」。分別あり顔の人、亀の子をとらへて、「今から飼うて見んものを」と言ふ。かたはらの者あざわらって、「命は槿花の露のごとし。たとひ長寿をたもつとも百歳をいでず。万年の命を、なんとして試みんや」といへば、「げにも、わるう思案したよ」と。



<現代語訳>

 「亀はどのくらい生きるものなのだ」。「一万年生きるという」。物の分別のありそうな人が、亀の子を捕まえて、「今から飼ってみようかなぁ〜」と言う。傍にいた者がこれを聞いてあざ笑って、「人間の命は槿花の露のようにはかないもの。たとえ長寿を保ったとしても、百歳を越えることはない。一万年の命を持つものを、どうやって試してみるのか」と言うので、「そのとおりだ。全く考え違いをしてしまったよ」と。