拒まれれば拒まれるほど空蝉に執着せずにはいられないのが源氏の性格というも のであった。彼が空蝋の弟の小君の手引きによって中川の紀伊守邸を訪れるのは 、これが三度目である。折から空蝉は、伊予介の先妻の娘、紀伊守には妹にあた る軒端萩と対坐して碁を打っているのであった。覗き見られていることを知らぬ 女たちの姿が、源氏の目と心とを通して克明に語られている。陽気でしどけない 軒端萩とは対照的な、空蝋の地味でつつましやかな容姿や風儀に、いよいよひか れる源氏であった。
その夜更け、源氏はひそかに空蝋の寝所に忍び込むが、その気配をいちはやく察知し た空蝉は、傍らに寝入る軒端萩を残して部屋を逃れ出る。源氏は思いがけなく軒 端萩と一夜を過ごすことになった。
源氏は空蝋の脱ぎ残した小袿を持ち帰り、これを掻き抱きつつ小君に怨みごと を言い続けるが、このように源氏に打撃を与えた空蝋の強固な心高さは、これこそ雨 夜の品定めにおいて評価された中の品の女の気概であるといえよう。